マエケンはなぜメジャーで勝てるのか? データが示す外角の制球力
あのとき、捕手は外角低めにミットを構えていた。しかし、スライダーが真ん中高めに吸い込まれるように向かっていく。その甘く入った球をジョー・パニックが捉えると、打球はライトスタンドへ。その瞬間、デビューから続いていた前田健太の無失点記録は、17日に行われたジャイアンツ戦の3回に14回2/3で途切れた。 試合後、「失投」と口にした前田。狙いは、ボールからストライクゾーンに入ってくる“バックドアスライダー”だったよう。 「(バックドアスライダーを)投げようと思ったんですけど、真ん中高目にいきました」 しかしあの球は前田にとって、極めて珍しいミスだった。デビュー以来、その日も、被弾後も、丁寧に外角をついていた。 試合後、そうした配球に着目したのが、米スポーツ有線局「ESPN」の電子版である。東海岸の日付が変わってから、 “Kenta Maeda continues to win, gets them out like Greinke(前田が勝ち続ける。グレインキーのようにアウトを重ねる)”という見出しの記事を掲載。それによれば、前田が“真ん中より外寄り”に投げた比率は、ジャイアンツ戦で投じた98球のうち、84%の82球だったと弾き出している。デビュー戦となったパドレス戦では67%、次戦のダイヤモンドバックス戦では72%。平均すると74.3%で、これは今季の全先発投手の中で最も高い割合とのこと。そしてその数字というのは、ザック・グレインキー(ダイヤモンドバックス)の昨季の数字に近いそうだ。 昨季までドジャースに所属したグレインキーといえば、外角の出し入れを得意とし、昨季は19勝3敗、防御率、1.66でタイトルを獲得。昨年のオフにダイヤモンドバックスと6年総額2億650万ドルという破格の契約を結んだことで話題になったが、その穴を埋めることを期待された前田にも、同様の制球力があり、その攻めはグレインキーを彷彿とさせる、というわけである。 データを算出したソースが書かれていないので具体的な数値を確認できないが、球場に備え付けられたカメラからボールの球速、軌道などはじき出す「PITCH f/x」のデータを詳細にビジュアル化している「brooksbaseball.net」によれば、前田がやはり徹底して外角を中心に攻めていることが明確となった。 「brooksbaseball.net」には、2つの図のようにコースを25分割し、それぞれのコースにどれだけの球が投じられたか、具体的な数と割合が示されている。今回はそのデータをもとに前田が、対右打者、対左打者にそれぞれ、どういう攻めをしているのか調べたが、対象を真ん中のゾーンを含む外角とした。 その方法で前田の開幕3試合をたどると、前田は、対右打者に対しては83.73%(図1)、左打者に対しては81.34%と、やはり真ん中から外角へ高い確率で投げていることが分かった。グレインキーの昨季のデータも同様に調べてみると、対右打者が82.71%(図2)。対左打者が83.08%だった。 「ESPN」との誤差は、「ESPN」がストライクゾーンの真ん中に垂直に線を引き、その外寄りという捉え方をしているのではと想定できるが、いずれにしても同様の傾向が浮かび上がっている。そもそも二人の配球が酷似していることは、視覚的にも一目瞭然。各図は球数の割合が多いほど青から赤へと変化しているが、前田とグレインキーの対右打者の図を比べたとき、わずかな差しかなく、外角低めのボールのゾーンは揃って一番投げているコースでもあった。