28歳で人生を終えた勝武士を新型コロナから救うことはできなかったのか?
荒井氏によると、高田川部屋は、「厳しい稽古」と「角界一のちゃんこの美味さ」で知られる部屋。通常、稽古場に設置されている鉄砲と呼ばれる大きな柱は1本だが、高田川部屋には、元安芸乃島が部屋を継承して、建て直した際に5本も設置。突っ張りなどの基本を大事にした厳しい稽古を実践できる環境を作った。 一方で、「ちゃんこは横綱級」で、「塩バターちゃんこ」と「お好み焼き」が名物で、お好み焼きは、つなぎに小麦を使わず、山芋を使うのが自慢で「うちのお好み焼きは粉ものじゃない」が、ちゃんこ番の口癖。厳しい稽古と、美味しいちゃんこで、部屋にまとまりが出て、「角界でも代表的な一体感のある部屋」(荒井氏)。 皮肉にも、その部屋のまとまりの良さが、複数の感染者を生み出すことになってしまった。 「相撲部屋は、密室空間にあり、ちゃんこを一緒に食べ、複数の力士が寝食を共に生活をするので、一人が新型コロナに感染するとクラスターが起きやすい環境にあります。加えて、職業柄、無理にでも、体を大きくしなければならないので、糖尿病などの“成人病”と言われるような疾患を抱える力士が少なくなく、新型コロナに感染した場合に重症化する危険性が高いことを指摘されていました。各部屋は、手洗い、消毒、マスク使用の徹底はもちろん、ぶつかり稽古をやめ、時間差での個人稽古にし、ちゃんこも一人ずつ取り分けておくなど、いろいろな感染予防策を打ち出していたが、恐れていたことが起きてしまった。今後は、さらなる対策の引き締めが必要だし、協会は、全力士のPCR検査をずっと模索していたが、今回の悲劇をきっかけに、前倒しに抗体検査の導入を発表しました。二度と、角界から新型コロナ感染者を出さないという姿勢の表れでしょう」と荒井氏。 相撲協会は、約1000人の親方、力士らの希望者に抗体検査を受けさせる体制を整えることを緊急発表した。 また荒井氏は、勝武士が憧れていた、同郷の兄弟子、竜電の心のケアの必要性を訴える。 「ご家族や親方もショックでしょうが、一番ショックを受けているのが竜電関だと思うのです。彼の今後の力士生活に影響を及ぼさないか、と心配されます。名古屋場所まで、そう時間はありません。竜電関の心のケアを協会も部屋もしっかりと考えて欲しい」 新型コロナ感染の不安感や試合が再開しないことへのストレスなどから、うつ病などが起きる懸念のあることが、すでにサッカー界や野球界でも問題になっている。 身内から新型コロナに命を奪われる“犠牲者”が出たとあっては、竜電らの精神的ショックははかりしれない。 5月24日から両国国技館で開催予定だった夏場所は中止となり、7月19日からの名古屋場所は、移動による感染リスクをなくすため、両国国技館に場所を移して無観客で行う方針に変更された。勝武士の兄弟子だった竜電や、陽性反応から回復した白鷹山ら高田川部屋の力士が、この短い期間で、心身共に立て直すのは容易ではないだろう。また高田川部屋以外の部屋の親方、力士などへの不安感も広がっている。