米新政権における対テロの位置付け 対テロが国家間イシューの陰に隠れる懸念
アメリカ大統領選挙まで2ヶ月を切る中、9月にはトランプ氏とハリス氏の初の討論会が行われた。 【画像】ハリス氏・トランプ氏討論会でも“国家間イシュー”重視は一致 討論会後の評価では、ハリス優勢の声が広がり、多くの世論調査結果でも、支持率でハリス氏がトランプ氏を若干上回る結果が出ている。 だが、米大統領選は獲得票数ではなく、各州に割り当てられた選挙人を如何に多く取れるかで勝敗が決まることから、現時点でどちらが勝利するかは分からない。
国際テロ情勢では依然として不穏な空気が流れるが
一方、国際テロ情勢に目を移せば、イラン南東部ケルマンでは2024年1月、イラン革命防衛隊のソレイマニ元司令官の追悼行事を狙った大規模な自爆テロ事件が発生し、、100人あまりが死亡した。 また、3月にはロシア・モスクワ郊外にあるコンサートホールを狙った襲撃テロ事件によって140人以上が死亡するなど、依然として予断を許さない状況が続いている。 両事件では、アフガニスタンを拠点とするイスラム国ホラサン州(ISKP)の犯行が指摘されているが、パリ五輪や6月から7月にかけてドイツで開催されたサッカー欧州選手権を含め、欧州ではISKP関連のテロ未遂や容疑者の逮捕が相次いで報告されている。 また、近年マリやブルキナファソなどアフリカのサヘル地域では、イスラム国やアルカイダなどを支持するイスラム過激派によるテロ活動が活発化し、トーゴやガーナなどギニア湾沿岸諸国はイスラム過激派の活動が南下し、国内の治安情勢が悪化することを強く警戒している。
米国の対テロ対策は優先度高まらず
テロ対策専門家の間でも、今後の国際テロ情勢の行方を懸念する声は少なくない。 しかし、これまでのトランプ氏とハリス氏の言動などを検証すれば、新政権の外交・安全保障上の重心は米中対立やウクライナ侵攻などの国家間イシューに置かれ、米国権益を脅かすテロ事件が生じない限り、対テロ政策の優先順位が高くなることはないと考えられる。 9月に行われた討論会でも、外交・安全保障上の議題は、国家間イシューで占められた。 米中対立について、トランプ氏は中国製品に対する関税を60%に引き上げることで、中国にお金を支払わせると主張した。 一方、ハリス氏はトランプ政権時代に米国の半導体が中国に流れ、結果として中国軍の近代化を支援することになったと指摘し、先端半導体の輸出規制など的を絞ったバイデン政権の中国政策の方が効果的だと反論した。 ウクライナ戦争についても、トランプ氏は、バイデン政権のアフガニスタンからの米軍撤退によってロシアがウクライナに侵攻することになったと批判し、自分なら両国の指導者を引き合わせて戦争を終結させることができるとした。 それに対し、ハリス氏は、ウクライナが独立を維持できているのはバイデン政権による軍事支援の成果であり、トランプ氏が大統領なら今ごろプーチン大統領はキーウに居座っているだろうと反論した。 さらに、中東情勢について、トランプ氏はハリス氏が大統領になればイスラエルは2年以内に消滅すると批判し、ハリス氏はイスラエルに自衛権があるものの、戦争を一刻も早く終結させる重要性を強調した。 このように、外交・安全保障分野においても、両氏は互いを批判し合っているが、中国に対する外交姿勢、国家間イシューに重心を置く、対テロ政策をその後に位置付けるという点では共通しており、新政権は対中国を外交安全保障政策の主軸にすることは間違いないだろう。