清和会(旧安倍派)の解体と日台関係の危機
ワクチン提供で蔡政権をサポート
今後の日台関係で懸念されるのは、これまで日本側で関係強化に重要な役割を担ってきた自民党の旧清和会(安倍派)が、政治資金パーティーの裏金事件をめぐって派閥幹部が政権中枢から一掃され、派閥そのものも解体となったことだ。清和会は解体前、党の最大派閥として100人近くの規模を持ち、その多くが日華懇にも加入していた。 台湾と日本は外交関係がないので、議員による交流・外交が重要となる。その中心を担ってきたのが日華懇だった。現在、300人ほどの国会議員が加入する日華懇は、もともと自民党内の保守派=親台派を軸に1973年に結成され、当時の田中角栄、大平正芳両氏に代表される「親中派」対抗するグループだった。 断交によって経済・文化などの非政治領域に限定されることになった日台関係において、それでも時に応じて発生するハイポリティックス(政治、外交、軍事など)案件を処理する上で日華懇はしばしば活躍した。 近年の日台関係で日華懇が存在感を発揮したのが、新型コロナ問題における日本から台湾へのワクチン提供だ。古屋会長によれば、台湾側から火急の求めでワクチンの提供要請があり、古屋会長―謝長廷・駐日代表ラインで意思疎通をはかりながら、日華懇の事務局長であった木原稔・首相補佐官ルートで菅義偉首相サイドと詰めを行った結果、異例ともいえるスピードでワクチンを台湾に向けて供出することになった。当時、世論から厳しい批判にさらされていた民進党・蔡英文政権への大きなサポートになった。
安倍人脈が親台派広げる
これまでの日台関係が総じて良好だった背景には、日華懇の主体となった岸信介元首相の流れを汲む清和会(細田派→安倍派)の存在感が日本政界で極めて大きかったことがある。故・安倍晋三元首相は、祖父である岸元首相の強い影響のもとで政治の道に入り、憲政史上最長の長期政権を形成することに成功した。 安倍氏の首相在任中、とりわけ重要な日台間の出来事といえば、第二次政権発足直後の2013年に「日台漁業協定」が締結されたことだろう。台湾漁船の尖閣諸島海域への入漁を一部認める内容で、法的論議からすれば日本には受け入れることは難しい部分が含まれ、水産庁は反対の姿勢だった。しかし、官邸主導で日本側は台湾との締結に踏み切った。その最大の理由は、同じく尖閣諸島の領有権を主張する中国と台湾を組ませることは日本としても回避したい。台湾を日本の味方につけておきたいという安倍氏ならではの考えがあったと目されている。 また、18年に台湾で起きた花蓮での地震の際、安倍氏は動画を撮影し、「日台友好」と揮毫した色紙を見せて台湾を励ました。自民党に半導体議連を共に結成してTSMCの日本誘致に貢献したとされる甘利明氏も安倍氏と親しい関係にある。前出の古屋氏、高市早苗氏、安倍氏の弟である岸信夫氏など、清和会以外にも広がる安倍人脈が日本政界で台湾の友好勢力として根を張っていた。