ABEMA新番組「国境デスロード」スタート 大前プジョルジョ健太D「海辺の石に意味を」
東野幸治(57)とあの(年齢非公表)がMCを務めるABEMAの新バラエティー番組「国境デスロード」(土曜午後9時)が今日7日からスタートする。番組の企画・総合演出を務める元TBSの大前プジョルジョ健太ディレクター(D=29)がこのほど取材に応じ、テレビ局退社の経緯、番組への思い、今後のビジョンを語った。(全2回の2回目) 【佐藤成】 ◇◇◇ 実際に到達した国境では衝撃を受けた。それは「命に値段が付く」という事実をまざまざと見せつけられたからだった。生きることへの執着は日本人よりも強い一方で、「死ぬのは仕方ない」という考え方も持ち合わせている人々が多くいた。 「コヨーテというメキシコからアメリカに渡らせる闇の組織みたいながあるんですけど、安全なコヨーテを使いたければ200万円。でも安いコヨーテを使えれば死ぬかもしれないけど、30万円みたいな。すなわちお金で命が変わってくるということで、国境に行くとそういうことが多いんだろうなと思いましたね」 自身も命をお金で買う経験をした。メキシコの国境地帯で警察に特に理由もなく身柄を拘束された。そこで言われたのは「(日本円で)約20万円払えば助かるぞ」。留置場から解放されるためにお金が必要だった。現金は持ち合わせていなかったが、銀行のATMまで警察官に送り届けられ、お金を下ろした。彼らはなぜか直接はお金を受け取らなかったという。「地面に置け」と指示を受けて現金を置くと、30秒ほどたって警察官はそれを回収していった。 「悪い人ばかりではないよというのは、ちゃんと伝えたいです。力強くまっとうに生きている人の方がやっぱり多いです。ただ、いろいろな事情でそういうことに手を染めざるを得ない人はいて、それが悪だとは僕も思わないし、それで危険な目に遭うのはもう自分のせい。だから印象操作をしてしまっているのではないかという葛藤として常にありますね。半ば強引に定義しちゃって本当にいいのだろうかというのはやはり常に感じながら、悩みながら進んでいます」 夢を持ってテレビ局に入る時に考えていたことがある。それは「海辺の無数の石に意味を持たせる」という信念だった。その思いはTBSを辞めても変わらない。今後もその矜持(きょうじ)を抱いて映像を撮っていく覚悟だ。 「海辺に行って石を見た時にそれはただの石じゃないですか。でも石を自分で拾うことによって、唯一無二の意味が出る。その石の1つの意味から、いろいろな石の意味が見えてくる。観察者としての立ち位置は難しいなとは思っているんですけど、そういう拾っていく作業を人生懸けてたくさんしていきたいです。勝手に拾っていいのか、常に悩みながらですけど」 TBSを辞めるときに「復職制度」を使った。退社後5年以内なら、会社に戻る権利がある。帰るかどうかを完全に決めたわけではない。ただその間に南米へ移住しようと考えている。 「南米の人って明るくて本当に救われます。根底の明るさみたいなのは、デスロードのロケを含めて感じましたね。どんなつらいときでもみんな笑ってるんですよね。なんかそれに比べたら、『番組面白くない』と言われても、『0から直せ』と言われても、もっと笑わなきゃと思って。ちょっとだけ強くなりました(笑い)」 南米の地への憧れを持ちつつ、直近の目標は「国境デスロード」のシーズン2をやることだ。そのためにはシーズン1でしっかりと数字を残すことが求められる。最後に今夜から配信が始まる「#1」の見どころを語った。 「標高5000mにある世界一過酷と言われている鉱山で働く男たちの物語です。家族のために、人が何人も亡くなるところに命がけで働きに行くんですけど、家に帰ってもすぐ山に戻りたいって言っていました。それって日本のサラリーマンと一緒だなと。『働くのしんどいとか、行くの嫌だな』と思いつつ、仕事が人生の一部になりつつある。自分と離れた存在のVTRかと思うかもしれないですけど、同じように感じる部分がたくさんあるはず。生まれた環境が違うだけで、同じ人間なんだなと感じられると思います」 番組の構成は#1~3は南米編、#4~6がアジア編、#7~8がアフリカ編の予定だ。国境地帯ならではのハラハラドキドキの中に垣間見える人間ドラマ。誰もがうらやむ大企業をスパッと辞め、孤独を経験した大前Dだからこそ描ける世界が広がっている。退路を断った男の挑戦はまだまだ続いていく。(終わり)