「実家片づけ」は親が元気なうちに!【片づけアドバイザーに聞く】実家を片付けるメリットとノウハウ
「親が亡くなった後、実家の片づけが大変だった」そんな話を聞いたことがあるかもしれません。でも日々忙しいですし、「まだ親は元気だし……」と思って先送りしている人もいらっしゃると思います。片付けアドバイザーの石阪京子さんが書かれた『実家片づけ 「介護」「看取り」「相続」の不安が消える!』(ダイヤモンド社)には、親が元気なうちに実家片づけをするメリットや、実家片づけの進め方が書かれています。本書に関連して、実家片づけのポイントについて、お話を伺いました。 〈写真〉【片づけアドバイザーに聞く】実家を片付けるメリットとノウハウ ■「実家片づけ」は親が元気なうちに ――なぜ、親が元気なうちに実家を片づけることが重要なのでしょうか? 実家を片づけるメリットは親にも子にもあるんです。まず、片づけないと子ども世代の出費が増えます。最近ですと、東京都と23区で家庭ゴミの有料化が検討されているというニュースがあったように、だんだんとゴミ回収にかかる費用が大きくなっています。 私自身も、数年前に夫の実家の片づけをした際には、家と不用品を一緒に処分できましたが、今だったら不用品の処分には膨大な費用と手間がかかります。子どもが「自分の手に負えない」と業者に依頼すれば、その分の費用も必要になります。 実家片づけをする際に「私が死んだら捨てておいて」と思っている親世代は多いのですが、それが難しくなっているのが現実。不用品は少しずつ処分していくことを勧めています。 親が元気なうちに片づけて暮らしやすくすることで、ご両親が健康に暮らせる可能性も高まります。家の中で転倒し怪我をして入院、そのまま認知症に……なんて、残念ながら珍しい話ではありません。 全然片づけられていない中で親が急に亡くなってしまうと、相続の手続きに必要な書類を探すのも大変です。期限があるので、先送りするわけにもいきません。ある方の家を片づけていたところ、鍋の中から札束が出てきたこともありました。それくらい、どこに何があるかわからないこともあるんです。実家片づけが済んでいれば、親が亡くなった後の実家の管理や相続に関する心配事が減るので、目の前のやるべきことに集中できます。 片づけができていることで、介護が始まっても家に人を入れやすいので、ヘルパーさんに来てもらったり、お友達に少し助けてもらったり、家族のサポートを受けたりして、最期まで実家で暮らせる可能性も高まります。 ■実家片づけでの親とのコミュニケーション ――本書はコミュニケーションの話が多かったのが印象的でした。親子だからこそのコミュニケーションの難しさはどんなところにありますか? 子からしたら「親だからわかる」という甘えがあります。私も実家片づけはケンカから始まりました。父でなく、近所のお年寄りだったら、もう少し親切にできていたと思うんです。 ――親側も自分の子どもですと、遠慮しないかもしれないですね。 そうですね。なので、親にイラっとくることを言われても「年をとったんだな」と思えるかもポイントです。 私も前半は激しいバトルを繰り広げ、泣きながら家に帰ったこともあるくらいです(笑)。父は元々は頭の回転が速い人で、私は昔のイメージのままでいる。でも年をとった父は一回では理解しきれないこともあって、よく考えたうえ、返答が翌日になることも珍しくない。年配の親との間には、そうやってタイムラグが生じてくるんです。 ――親の老いを受け入れていくことも必要になるんですね。 親に守ってもらえていた子どもが、今度は親を守る立場になります。その分岐点を感じ、悲しくなったりつらくなったりもすると思いますが、同時に私は親への感謝の気持ちが出てきたのと、変化を受け入れようという気持ちにもなりました。自己成長もできるのが、実家片づけだと思います。 ――読者さんや、片づけレッスンの生徒さんから、実家片づけのどんな悩みを聞きますか? ある方は、両親が「自分でやるから触らないで。放っておいて」と言っていたので、言葉の通り、放っておいたところ、あるときお母さんが倒れてしまいました。まず、保険証を見つけるのが大変だったうえ、入院のためにお金が必要だったので通帳を探していたところ、通帳もない。家の中を大捜索し、3日かけて発見したそうです。 その過程で、お母さんは結構良い貴金属を持っていたのに、全然ないことを不思議に思っていた。引き出しの中から領収書を見つけ、業者が「傷があるから」といった理由で、60円で買い取っていたことも判明しました。後々、調べたら評判の良くない業者だったそうです。 親にしたら、片づけるよう言われ、「片づけなきゃ」と思い業者を探しますが、それが悪意のある業者だと、こんなことも起きてしまう。だから年老いた親が一人で片づけをするのは、危険だと思います。 ――親のプライドもあって、子どもに頼れない方もいそうです。 「なんでこんなに汚いの/なんでこんなに物が多いの」などと、つい言いたくなってしまいますが、親のプライドを傷つけるようなことを言ってしまうと、実家片づけは進まなくなる。なので「お母さんが元気に暮らせるように手伝わせて」といった声かけが重要です。 ――上手く進めていくためには、子ども側の我慢も必要ですね。 ご両親が子どもだと思って接するくらいでちょうどいいです。大きな心で片づけを進めると、上手くいきますよ。 ――でも、頭ではわかっていても、イライラしてしまうこともありそうです……。 実家片づけを他人事だと思っているので「まだ取り組まなくていい」「親とケンカするくらいならやりたくない」とおっしゃる方もいますが、自分の将来の時間やお金のためにもプラスになることを思い出していただくと、きついことを言ってしまいそうなのを、少し辛抱できるところはあると思います。 一度の片づけを長くやりすぎないこともポイントです。私は親がピリピリしてきたら、ウルトラマンが人間に戻るときのように、サッと帰るようにしていました。急がずに少しずつやっていきましょう。 ――もし激しい衝突をしてしまった場合、その後どんな対応が取れるでしょうか? 私も毎回そうでした。でも多くの場合、親は忘れるのが得意なので、3日後にしれっと行くと何事もなかったりします。生徒さんからも、「親と激しくぶつかってしまった」という悩みを聞くことはよくありますが、「もう一度行ってみて」と言っています。行くと、親から「ここの棚を片づけたい」と言われるなんて話は頻繁に聞きますね。 ケンカをしても、基本的に親は子どもが来ると嬉しいものです。右から左に受け流すことが、ご自身のメンタルヘルスにも良いので、忘れることも大事。 そうやって忘れたり思い出さなかったりするのは、日常でも役立つことを感じています。不思議なのですが、片づけをすると、嫌なことを忘れやすくなるんです。 1年前にどんな服を捨てたか覚えていないように、捨てたもののことってみなさん思い出さないですよね。それと同じで、片づけをすることで、嫌な経験を捨てることに慣れるんじゃないかと、私は思っています。 ■片づけること自体は目的ではない ――色々試したもののなんだか上手くいかないときは、何から見直すといいでしょうか? 片づける目的がぶれているのだと思います。一旦片づけのことは置いておいて、お饅頭でも食べながら「どんな最期を迎えたいの?私はずっと家で元気で過ごしてほしいと思っているよ」なんて話を切り出す。そうやって、お互いの気持ちを確認する時間をとってみてください。 あと「友達のお母さんがこの間亡くなって、実家片づけが大変で200万円損したらしいよ」とか、他人の話を少し出してみるのも一つの方法です。あまり強く言うと、自分に言われているみたいだと思ってしまうので、さらっと伝えるのがポイント。 「お母さんはこうやって取り組んでくれてるから助かるよ」などと、褒めて乗せる方法もあります。父を褒める作戦は私も使っていて、「お父さんすごいね、ここまで片づけたなんて」と言ったら、少し前まで、山ほどこけしがあったのですが、粗大ゴミに出していました。 ――片づけることを目的にしがちですが、今後どう暮らしていきたいかが大切なのですよね。 そうなんです!ゴールは「片づけること」ではないですからね。両親が健康に暮らせて、大切なものが何かわかって、いざというときにお金の心配がない状態にするために、実家片づけをする。片づけをしていく中で本来の目的を忘れてしまうことがあるので、何度も確認し合うといいと思います。 ※後編に続きます。 【プロフィール】 石阪京子(いしざか・きょうこ) 片づけアドバイザー。宅地建物取引士。JADPメンタル心理カウンセラー・上級心理カウンセラー。 独自のメソッドは、一度やれば絶対にリバウンドしないのが特徴で、これまで様々な方法を試したり、プロに頼んではリバウンドを繰り返してきた人たちの「最後の駆け込み寺」となっており、直接指導した人は1500人を超える。 『一回やれば、一生散らからない「3日片づけ」プログラム これが最後の片づけ!』『人生が変わる 紙片づけ!』(ともにダイヤモンド社)は、累計16万部を突破。 インタビュー・文/雪代すみれ
雪代すみれ