農相という箔は付いたが…公務で地元入り減り支持層まとめきれず自民落選、野党候補が連続で対決制す〈鹿児島3区〉
衆院選は鹿児島県内4選挙区のうち3選挙区で自民公認候補が敗れた。自民の選挙区議席が半数を割ったのは結党以来初めて。選挙戦を振り返り、今後の展開を占う。(2024衆院選かごしま連載「自民3敗」③より) 【写真】公務のため決起大会を中座する小里泰弘氏。必死の形相を見せた=10月24日、薩摩川内市
「農相の任務を全うできず、おわびしたい」。鹿児島3区で落選確実となった27日夜、自民の小里泰弘氏(66)は支援者に深々と頭を下げた。 立憲民主の野間健氏(66)とは3回連続の対決。前々回2017年は約1万2000票差で下した。週刊誌による女性問題報道後の前回は約1万5000票差で敗れ、今回は約2万9000票差に広げられ比例復活も逃した。 農業関係の学科を持つ高校が4校ある3区は、長島町が養殖ブリ生産量日本一で、伊佐市は県内最大のコメ生産地。自民が強みとする典型的な保守地盤だ。 農相という箔〔はく〕も付いた。にもかかわらず自民支持層をまとめ切れなかった。共同通信などが実施した投票日の出口調査によると、3割が野間氏に流れた。 頼みの県農民政治連盟は農家などの票固めに注力したが、機能したとは言いがたい。与党議員不在のデメリットを訴えても得票は伸びない。農協幹部は「大臣になったばかりで実績をアピールしきれなかった。農家を足しげく回る野間氏に票が流れた」と悔やむ。
さつま町の70代のコメ生産者は減反や飼料用米への転換など自民の政策を批判。「肥料代や燃料代高騰で苦しいのに、農政連を含め対策を打ってくれない」と昔と比べ組織が一枚岩になれない背景を説明する。 農相公務で、12日間の選挙期間中5日間地元を空けた。石破茂首相が応援演説に入った日も不在だった。 1、2区で敗れた自民候補と同様、小里氏も故・貞利氏を父に持つ世襲議員。引き継いだ旧4区すら固められなかった。「顔が見えない」と地元回り不足を指摘する関係者は多い。先代から支持する伊佐市の60代男性は「新幹線や国道整備で実績がある父親と比べ物足りない」と語る。 一方の野間氏。自民総裁選候補者に世襲が多かったと演説で触れ「庶民の生活が分かっていない人たちが今の政治を牛耳っている」と暗に小里氏を批判した。 普段からの地元回りが強みで前回選挙後のつじ立ちは500回を超す。「市民の声を届けるのが役割」と野間氏。小里陣営も「市町村議並みだ」と舌を巻く。
情勢調査で優勢が伝えられても、陣営は「相手は大臣だ」と気を引き締めた。野党支持層だけでなく、故松下忠洋元金融相の後継をアピールし保守層にも食い込んだ。ただ、幅広い層から支持を求めることと主張の不明確さは表裏一体だ。 九州電力川内原発について将来的な脱原発を目指しつつ当面の利用を容認。防衛省がさつま町で整備を検討する弾薬庫への立場は公にしていない。計画反対の70代男性は「野党の野間さんには争点にしてほしかった」と残念がった。
南日本新聞 | 鹿児島