「二度手間すぎ…」結局、いるの?いらないの?専門家に聞く「電子帳簿保存法」での《ハンコ》の現在地
新手の偽造、デジタルデバイド……、問題は山積み!
今はデジタルへの移行過渡期にあり、繰り返す試行錯誤に振り回されている感は否めない。さらに、デジタル化は良いことばかりではなく、それなりに危険も伴うと岡田氏は言う。 「例えば税務調査をする側から見ると、手書きの領収書はインチキをするとすぐわかるんですよ。 1万円の領収書に1を足して11万にするというのは本当にあって、調査官はみな、見抜く技術をもっています。 ところがデジタル化すると、そういうアナログな不正ができなくなる代わりに、今度はデジタル文書を変造した形跡などを見抜く技術が必要になってきます。データを作成した履歴を追いかけることも必要になるので、これからは新しい技術に対する戦いが起きてくる。 デジタル化すると、インチキしやすくなるんですよ。インボイスにしても、フランスでは大規模な偽インボイス作成工場が摘発されましたし」 インボイスといえば、世界には付加価値税を取り入れている国が150ほどあるが、そのなかで長くインボイスが導入されなかったのは日本だけだった。 それは遅れていたわけではなく、日本独自の方法を作り上げていたからだと岡田氏は言う。世界的に見ても、日本のようにきちんと帳簿を作れる国は他に類を見ないのだと。 できてしまうが故に、帳簿方式を残したままインボイスを導入した日本。税理士や経理担当者は今、昔ながらの帳簿とインボイスの二重縛りでガチガチの状態を強いられている。 そしてもうひとつ。このままデジタル化が進めば、当然ながらデジタルデバイドの問題も出てくるだろう。 「乗り遅れてしまう人たちは、往々にして低所得者層の中に生まれてきます。電子の強制は経済的な貧困問題とセットになっているんです。 同時に、知識階級に属するような人たちの中に、ハンコをなくしてはいけない、デジタル化には絶対に乗らないという人もいます。そういう人たちを排除するわけにはいきません」 ペーパーレスは確かに時代の流れではあるが、ハンコを語るとその背景も含め、実に奥の深い話になるのだと改めて思う。 「最近は、日本に来た欧米の人たちがハンコを作りたがったりしますよね。極端な話、『これが自分のハンコだ』と言えば、芋版だって可愛い動物だってかまわないわけです。 例えば若い人たちが、サインの代わりにそんなハンコをポンと押しちゃうとか。それが新しい文化として広がることは十分にあり得るし、大人の社会に影響を与える可能性だってありますよね。何が起きるかわからない。 日本人に親しまれ、長い歴史のあるハンコですから、私は決して古いものにはならないだろうと思います。ビジネスシーンでも、どうすればいいとは一概には言えない。そして、何が正しいとも言えないんですよ」 岡田俊明(おかだ・としあき)税理士法人白井税務会計事務所・所長、元青山学院大学招聘教授。東京税財政研究センター理事長、元特別国税調査官。著書に『相続と税の実務に関する32ポイント』(日本加除出版、2019年)、共著に『税務行政の改革』(勁草書房、2002年)、『個人情報丸裸のマイナンバーはいらない』(大月書店、2016年)、『典型契約の税法務―弁護士のための税法×税理士のための民法』(日本加除出版、2018年)。 取材・文:井出千昌
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