米ツアーコーチ事情 進む分業「プロ1人にコーチ3人」は当たり前!?
中でもパッティングコーチは専門性が高い。シャウフェレにはデレク・ウエダ氏(エリック杉本も彼の教え子)、ホアキン・ニーマン(チリ)にはスペイン人のラモン・ベスカンサ氏。そして一番の売れっ子は、イングランド人のフィル・ケニオン氏だろう。 手にいつも傾斜計を持ち、時に携帯でストローク動画を撮って、ボソボソと選手と話す。教える顔ぶれはシェフラーを筆頭に、ジャスティン・ローズ、トミー・フリートウッド、マシュー・フィッツパトリックといったイングランド勢、ホマなど多くが世界ランキングのトップ30。練習日には、彼らがケニオン氏に時間を合わせるほど引っ張りだこだ。シェフラーはケニオン氏がついてから、パッティングのスタッツは右肩上がりで、元々高かったケニオン氏の評価もうなぎのぼりになった。
どうしてここまで多くのコーチがいるのか?クリス・コモ氏に聞いてみた。 「やっぱりここはお金を稼げる場所だからね。コーチたちも集まってくるよ」 とても現実的な答えだった。確かに賞金額がデカいPGAツアーでは、実入りもデカい。コーチの報酬は「賞金のパーセンテージ」(例えば10%など)+「インセンティブ」(優勝などのボーナス)が多い。LIVに移籍した選手と一緒にコーチがLIVの試合に帯同するのは、高額賞金が影響しているのだろう。 専門コーチの多さに関しては「自分もショット以外のことも教えられるけど、ここは“扱うのが大変な人”が多いからね。ショットだけ見るのでも大変なんだ。分けたほうが効率的だろ」と説明。「そのうち僕も7番アイアン専門コーチになろうかな」とジョークで締めてくれた。
1人の選手に複数のコーチがついている場合、彼らは頻繁に話し合う。例えばショットコーチとパットコーチが密に連携して、互いのやっていることに齟齬が起きないようにする。コーチ同士、実に仲が良さそうに情報共有していることも新鮮だった。 長く調子を維持することが難しいゴルフ競技にあって、世界ランキング1位のシェフラーがショット、パッティング、メンタルの分野別にコーチを付けている事実は、見逃せない。アメリカではコーチの立場は高く、扱いが選手と対等とさえ感じるときもある。日本のツアーではようやく「コーチをつける文化」が根付いてきたが、専門コーチの存在はまだ少ない。コーチ側のスキルアップは当然必要だが、コーチという存在にもっと目を向けてもいいのではないか。それはきっと、日本ゴルフ界のレベルの底上げになるはずだから。(ケンタッキー州ルイビル/服部謙二郎)