“若い世代ほど本屋に行かない”は間違い。出版まで行う独立系書店の事例から紐解く「新しい本屋の在り方」
自分の意思で、自由に何かを選ぶ体験こそ本屋の価値
出版やリソグラフ印刷機の会員収入など、幅広い収益源を確保しながら経営を行う本屋・生活綴方。しかし、中岡さんは「本屋があること」が何よりも大事だと強調する。 「出版の売上やリソグラフ会員による収入は確かにありますが、それはすべて本屋という『場』があってこそ成り立っています。本屋でいちばん大事なのは品揃えにほかなりません。うちのお店は品揃えがとても評価されているのは、書店員歴の長い鈴木店長が売り場を切り盛りしてくれているから。だから、まず品揃えを目当てにお店に来てくれる。そのお客さんがリソグラフに興味をもってくれたり、他のお客さんを呼んできてくれる。もし本屋の本質である品揃えがいいかげんだったら、これほどほかの事業もうまくいかなかったはずです」 このようにユニークな本屋が生まれる一方で、現在はデジタルネイティブ世代と呼ばれる若い世代ほど本を読まないと言われ、それが本屋減少の一因とされることもある。しかし、中岡さんはその認識を強く否定する。 「私たちは岩手や新潟、大阪などさまざまなイベントに出店しています。当店もそうですが、イベントに来るお客さんのほとんどは20代から30代の若い人たちです。特に、SNSを見て訪れたという方が多く、今の時代だからこそ、地域を超えて若い世代にも知ってもらうことができます。なので、若い世代は本屋に行かないというのは間違いです。デジタルネイティブ世代は、必ずしも新しいものに価値を感じているわけではありません。ECサイトや配信サービスなどを通じて、新しいものも古いものも両方に触れることができる時代です。若い世代でも、70年代のシティポップなどの昔の音楽を普通に聴いているように、古いからといって価値がないとは限らないのです。本屋でも最新刊や売れ筋だけを揃えるのが正解ではなく、できる限り多様な本を並べるのが良いと考えています。世代に合わせてこういう本が良いだろうと決めつけるのは、今の時代にはそぐわないのです」 そんな中岡さんが考える本屋の価値とは何か。最後に、次のように締めくくる。 「アルゴリズムに左右されないという点は、間違いありません。東京・下北沢の『本屋B&B』を経営するブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんが『不便な本屋はあなたをハックしない』という言葉を伝えています。つまり、本屋はレコメンド機能や特定の情報に誘導する仕組みがなく、そこにあるのは、偶然の出会いです。広告のように『あれをやれ』『これをやれ』と言われると、自由が奪われ、ワクワク感がなくなってしまいます。しかし、本屋では自分の意思で自由に選ぶ体験ができる。これこそが本屋の価値なのかもしれません」 デジタルネイティブ世代は、ネットで効率よく情報を入手できる一方で、アルゴリズムによって偏った情報に囲まれる「フィルターバブル」という問題にも直面している。しかし、本屋を訪れれば、ネットのアルゴリズムに縛られることなく、もともと興味がなかった本や情報に偶然出会うこともできる。これは「フィルターバブル」を超えた世界とのつながりを生むきっかけにもなり得る。本屋の意義を“偶然性に優れたプラットフォーム”と捉えたとき、デジタルでは体験できない価値を際立たせることが、これからの本屋に求められるのではないか。
AMP編集部