「まさに天国から地獄」投票用紙に「!」と書いてさえいなければ…わずか1票差で当選が無効 納得いかない市議会議員の法廷闘争
2023年4月、栃木県小山市で市議会議員選挙があった。28の議席が争われ、1049票を集めた現職の片山照美氏(67)が最下位の28番目で当選。次点との得票差はわずかに1票というぎりぎりの勝利だった。 【写真】「!」の符号が… 1票差当選の維持求め提訴
次点となった候補は納得がいかない。小山市の選挙管理委員会に、票の再点検を求めて異議を申し立てた。市の選管が調査したが、結論は変わらない。それでも次点候補者は諦めず、さらに栃木県選挙管理委員会に審査を申し立てた。すると、栃木県選管ではまさかの結論が。 「片山氏が集めた票のうち、2票は無効票だ」 この結果、選挙結果は覆って次点候補が1票差で上回った。片山氏の当選は無効となった。 なぜこんなことが起きたのか。ポイントは「他事記載」だ。(共同通信=帯向琢磨) ▽余計なことを書くと無効? 「他事記載」は、「余計な記載」と言い換えることができる。公職選挙法68条は「公職の候補者の氏名のほか、他事を記載したもの」は無効と定めている。つまり、投票用紙にある候補者の名前が書かれていても、余計なことまで書かれているとその候補の得票にならず、無効とされてしまうのだ。 なぜこんな規定があるのか。総務省の説明をかみ砕くと、こんな感じになる。
「特定の意味を持つ記載があると、その票を誰が投票したのか分かってしまう可能性があり、選挙の基本原則である『秘密投票の原則』が破られて選挙の公正さが害される恐れがある」 各地の選挙管理委員会も、他事記載をしないよう注意を呼びかけている。例えば三重県四日市市の選挙管理委員会はホームページで、★などの記号や、『がんばって』などのメッセージがあれば無効票と判断される可能性があると例示している。 ただ、候補者名以外に何か書かれていれば即座に無効、ということでもない。法律の条文にはこんな「ただし書き」がある。 「ただし、職業、身分、住所または敬称の類を記入したものは、この限りでない」 じゃあ、どこまでが有効でどこまでが無効なのかというと、これが難しい。ポイントは、このただし書きの部分をどう解釈するかだ。 過去の裁判例を見ると、「誤記」や「書き損じ」、「余り字」あるいは「誤って不用意にあるいは習慣性のものとして無意識的に記載された句読点」などは他事記載には当たらないと判断されている。理由はいずれも「意識的なものとは認められないから」だ。