船井電機破産、不可解な資金の流れ 出版社が買収後3年半、347億円の現預金ほぼ枯渇
5月から役員の入れ替わりが相次ぎ、「従業員すらよくわからない人物が入ってきていた」(帝国データバンク担当者)。9月にはミュゼの広告代金約22億円の未払いが発覚し、同27日には上田氏が社長を退任した。9月末時点ですでに原材料の仕入れ代金が支払えず、工場の操業が停止していたという。
破産申立書では、持ち株会社を経由したミュゼなどへの貸し付けで、船井電機から約300億円の資金が流出したとしており、これが破産の要因になったとみられる。ミュゼ買収を巡っては、横浜幸銀信用組合(横浜市)から資金が貸し付けられている。一方、秀和による船井電機の買収資金の一部はりそな銀行が貸し付け、船井電機の預金が担保となっており、今年5月に回収されている。
M&A(企業の合併・買収)に詳しい公認会計士の久禮(くれ)義継氏は「買収の手段の一つで、スキーム上、特に不自然なところはないように見受けられる」と話す。ただ、船井電機が持ち株会社である船井電機HDに約253億円を貸し付けていたことについて「グループ全体を統括する持ち株会社が子会社に貸し付けるのが普通。金額もきわめて多額で、違和感がある」と指摘する。
中央大の青木英孝教授(企業統治)は「単なる事業の失敗か、何らかの不正があったのかを外部から判断するすべはないが、買収にあたって船井側は秀和をよほど信じていたんだろう。いざというときにブレーキを効かせる手段を考えておくべきだった」と述べた。
■「テレビデオ」が大ヒットも、価格競争に敗北
船井電機は創業者の船井哲良氏が1951年に創業したミシンの卸問屋を源流とする。61年にトランジスタラジオの製造部門を独立させて船井電機を設立した。
音響機器からビデオデッキ、コードレス電話機などに手を広げていく中で、ターニングポイントとなったのが85年に発売したテレビとビデオデッキ一体型の「テレビデオ」だ。
低価格で、しかもほかの日本メーカーと遜色のない機能で大ヒットを記録。米小売り大手のウォルマートと組み、90年代後半から2000年代にかけて大きく伸長し、北米ナンバーワンの60%超のシェアを獲得した。