【大人の群馬旅】本と音楽とアートの居場所で非日常に浸る
この日、タロットカードを引くように私が買い求めた一冊は佐野洋子さんの『ふつうがえらい』(マガジンハウス)の古書である。旅をすることは、日常から“別の次元”に入り込むようだが、本もまた現実の世界とは異なる“地図のない場所”へと誘ってくれる。最後に小見さんが案内してくれたのは、建物の前庭として設えた「カナウニワ:願いが叶う庭」である。緩やかな起伏をおびた小さな庭には、新しく掘った井戸と、この先の100年を見つめる新たなシンボルツリーとして、子どもたちと植えたモミの苗木がしっかりと根を下ろしていた。入口では、若いロースターが、常連客のためにコーヒーを注いでいる。私が去った後には、ここを居場所として求めて来る人々が、いつも通りの日常を演じることだろう。そんなことを考えながら建物を後に振り返ると、若いモミの木に優しい川風が渡った。 住所:群馬県前橋市敷島町240-28 電話:027-235-8989 BY TAKAKO KABASAWA 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。