加藤一二三が教える「将棋」と「囲碁」の決定的な違い
加藤 結構ありまして、以前、囲碁の趙治勲さんと一緒に番組に出て、僕が趙さんに碁を教えてもらい、趙さんが僕に将棋をならうということをやりました。趙治勲さんは本当は将棋がものすごく強いんですよ。実力から言ったら、プロに飛車角落ちで絶対に勝てるぐらい強い。 でも、趙さんはどうしても勝ちたいらしくて、戦う前に僕に言うんですよ。「加藤さん、あなたが私に勝負で負けてくれたら、私も囲碁のほうはちゃんと負けるから」って。でも、実際に将棋を指してみたら、飛車角落ちで、本当に実力で負かされた。 それで、囲碁のほうは趙治勲さんが七目で打ってくれたの。本当は囲碁の手合いでは、星目風鈴というのが正当なハンデの付け方だけど、趙治勲さんにはあえて七目で打ってもらって、約束どおり趙治勲さんが僕に勝ちを譲ってくれました。 それと、別のある囲碁の棋士から言われたのは、加藤さん、強くなるには4、5人の有力な研究会に入れてもらって、そこで研究するのがいちばん身になるよ、ということでしたね。
茂木 話し合いの中から正解が見つかる。一種の「教師あり学習」ですね。先生がついていて、正解を教えてくれるという学習方法ですが、それはさきほどの感想戦もそうなんです。お互いが先生になる。失敗したときほど学習効果が上がるという意味においては、感想戦はすごく学びが大きいんじゃないでしょうか。おもしろいですね。戦いが終わった後に、お互いに胸襟を開いて、1時間ぐらい対局を研究するんですね。 ● 将棋の感想戦は “メタ認知”の貴重な機会 加藤 そうそう。時に相手から教わることもあるの。感想戦で、「加藤さんね、こういう手を指したんだけども、あなたが指した手よりこの手のほうがいいんじゃないか」と言ってもらったりする。 特に羽生善治さんからは、感想戦のときに、「加藤先生、ここで先生がこうやったほうがよかったんだ」と、3回ぐらい教わったことがある。そういうのを相手に教えることは、よけいといえばよけいなんだけどね。いや、でも性格ですよ。勝ったときと負けたときで感想戦のテンションに明らかな差のある棋士もいますから。 茂木 そうなんですね。これからは注意深く会話を聞きたいと思います。