加藤一二三が教える「将棋」と「囲碁」の決定的な違い
棋士が互いに対局を振り返って研究する感想戦は、将棋だと1時間、囲碁だと5時間にものぼるケースがあるという。脳科学者の茂木健一郎氏は、この感想戦を「メタ認知を養う貴重な機会」と評する。横並びの教育が良しとされる風潮があるなかで、勝ち負けの詳細を紐解くことの意義を問いかける。本稿は、加藤一二三、茂木健一郎『ひふみん×もぎけん ほがらか脳のすすめ 誰でもなれる天才脳の秘密』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 将棋は対戦直後、囲碁は数時間後 感想戦にみる「文化の違い」 茂木 将棋のタイトル戦では前夜祭がありますね。どんな感じの催しなんですか。 加藤 最近はだいたい立食パーティになりましたが、かつては関係者がそろって着席し、食事をして話をするという感じでした。この点、囲碁はずいぶん違うようです。決戦のゴングが鳴っているのだから前夜祭では一緒に食事をしない、と、囲碁のトップ棋士の方から聞いたことがあります。囲碁の世界と将棋の世界は、似ているところがあるから互いに交流はあるんですが、全然違うところもあるんですね。そのもうひとつが感想戦です。 茂木 ほうほう。というのは。 加藤 将棋では、熱戦が終わった後、私たちは即その場で1時間ぐらい、互いに対局を振り返って研究します。いっぽう囲碁では、戦いが終わったら、まずは引っ込んで、別々に食事をして、風呂に入って、と、かなり時間がたった後に部屋に集まり、そこから2人で研究するそうです。 茂木 あっ、ちょっと間を置くんですか。 加藤 そう。早くても3時間ぐらい後でしょうね。そこからがすごい。5時間ぐらい検討するんだって(笑)。我々の感想戦は1時間ですよ。
茂木 おもしろいですね。文化の違いがおもしろい。 加藤 戦い終わって、ある意味冷静になってから、お互いに研究する。囲碁のそれはそれで、ひとつの知恵ですよね。 ● 将棋よりも囲碁のほうが アッパークラスの文化!? 茂木 どちらかというと、囲碁のほうが、起源からして大名がちょっとたしなんだりと、優雅な文化なんでしょうね。勝ち負けも、将棋は王を取るという厳しいものだけど、囲碁はここで地を失ってもあちらで回復すればいいという、大局に重きを置くもの。だからか、昔から財界人や経営者は囲碁を好む人が多いですね。じつは僕も囲碁のほうが強いんです。アマチュア4、5段くらいだと日本棋院の人に言われました。 最近の将棋ブームを見ると、今は囲碁にはちょっと厳しい時代なのかなと思います。終わったら、すぐに感想戦というのもメディア映えはいいですしね。加藤名人は、囲碁はされますか。 加藤 アマチュア初段の免状をもらっています。 茂木 なるほど。囲碁をする方で将棋、逆に将棋をする方で囲碁をやる方はときどきいますね。日本棋院と日本将棋連盟の間にはどれくらい交流があるんですか。