【毎日書評】仕事がスムーズに進み、職場環境がよくなる「対人心理学」
心理学にはさまざまな分野がありますが、対人心理学では、私たちが他の人と一緒にいるときにどのように感じるのか、どのような行動をとるのかを調べる学問です。 集団や社会の中で個人が何を感じ、他の人との関係がどう築かれていくのかを主な研究としています。一般的には社会心理学とも呼ばれています。 つまり、社会(職場や学校など)で生きている私たちにとって対人心理学ほど日常に密接している学問はありません。(「まえがき」より) 『世界最先端の研究が教える新事実 対人心理学BEST100』(内藤誼人 著、総合法令出版)の著者は、対人心理学についてこのように説明しています。 私たち人間は、ひとりでは絶対にしないことでも、集団になると平気でやってしまったりするものだとも。いじめが典型的な例ですが、個人では「いい人」であったとしても、集団になると心の状態が変化することがあるわけです。 しかし社会において、人との関わりを避けて通ることはできません。だからこそ、社会を上手に生きていくための学問である対人心理学が重要な意味を持つということ。そこで本書では、数多い研究のなかから著者がおもしろいと感じる100種もの研究を取り上げ、それらをもとに対人心理学を解説しているのです。 よくある対人心理学の本は、教科書的で説明が多く、あまり面白いものではありません。 心理学では、仕事、学校、家族、恋人、結婚、スポーツ、政治、環境、法律、などありとあらゆることを研究の対象にしてしまいます。 本書は、専門知識などは特に必要ないので気軽に読み進めてください。(「まえがき」より) そんな本書のなかから、きょうは第3章「職場における心理学研究」に焦点を当ててみましょう。
目上の相手に敬意を払うための対人距離
私たちは、心理的に親しい人には無理なく近づいていくことができます。しかし相手が目上の人や地位の高い人である場合は、心理的に威圧され、できるだけ離れようとする傾向があるもの。 人と人との間にある物理的な距離のことを、心理学では“対人距離”と呼ぶそうですが、つまり地位が高い人との対人距離は長くなりやすいわけです。 米国ミズーリ大学のラリー・ディーンは、カリフォルニアにある海軍施設で562人の兵士たちのおしゃべり行動を観察してみたことがあります。 仕事絡みのおしゃべりではなく、他愛ないおしゃべりを調べるため、ロビー、カフェテリア、レクリエーション・センターの3ヵ所で観察を行いました。 ディーンは、一人で立っている人に、誰かが近づいていき、声をかけた瞬間を見計らって、お互いがどれくらいの距離を取っているのかを測定させてもらいました。(中略)さらにディーンは、話しかけたほうの階級(地位)と、話しかけられたほうの階級も教えてもらいました。(120~121ページより) すると、地位が高い人が低い人のほうに近づくときには、かなり距離が短くなったのだといいます。地位が高い人は遠慮なく、相手のすぐ近くまで踏み込んでいけたわけです。ところが、地位が低い人が高い人に近づいていくときにはかなり離れた場所から声をかけていたのだとか。 私たちは相手と距離を取ることによって、相手に対する敬意を示そうとします。距離を取れば取るほど、敬意の大きさを伝えることができるからです。したがって、もし自分よりも地位が上の人に話しかける際には、少しだけ距離を長く取ったほうがより効果的だということです。(120ページより)