ファンカルチャーと知的財産法の展望―ゲーム実況、キャラケーキ、コスプレ―
◇知っておきたいコスプレの危険なライン ガイドライン自体は法律ではないにせよ、権利者はこれを定めて公表することによって二次利用を許容すると同時に、遵守しない者には権利行使の可能性があると示唆しています。もしも、ガイドラインに「ネタバレ行為厳禁」などと記載されているにもかかわらず、これを守らずに動画等を配信してしまうと、権利者から複製権侵害等を理由に権利行使される可能性があるといえるでしょう。 また、二次創作としてのファンカルチャーではキャラクターの扱い方がよく話題になりますが、知的財産法においても様々な論点があります。 2021年11月に、アニメ『鬼滅の刃』の人気キャラをケーキに描いて販売したパティシエが、著作権法違反の疑いで書類送検されました。無断で作成・販売したキャラクターケーキによって2年間で400万円以上を売り上げていたようです。 『鬼滅の刃』は公式でもキャラケーキが販売されていますので、これは一種の「海賊版」ともみなせます。家族の誕生日ケーキに好きなキャラを描く程度なら問題ありませんが、ネットを使って大々的に販売し商業的に大きな利益を上げてしまうと、権利者のビジネスに影響が出ると受け止められて権利行使されやすいものと思われます。 さらには著作者人格権も関係してきます。この中には、自らの著作物については「その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」という同一性保持権が存在しますので、キャラクターを貶めるような二次利用は問題視されやすくなります。 有名な例では、二次創作漫画の性的描写について、権利者がキャラクターのイメージを著しく毀損するとして告訴した「ポケモン同人誌事件」があります。あるいは、ゲームキャラクターの衣服を脱がすなどといったプログラムの改造(MOD)も同一性保持権の侵害となりえます。 商業的利益の問題とは別に、制作者の思い入れを害するような行為に対しては、やはり権利行使の可能性が高まると考えられるでしょう。 他方で、線引きが難しいのがコスプレです。個人的に衣装をつくったり着替えて楽しむだけなら「私的利用」なので構いませんが、コスプレした写真を撮ってSNSにアップすると微妙なラインになり、仮に衣装を他人に譲渡または販売すると問題となりやすい傾向があるように思います。 形式的には、キャラクターの衣装も著作物となりえます。複製権や公衆送信権の他、二次元から三次元にするにあたっては翻案権を侵害するかもしれませんし、登録がなされていれば商標法や意匠法といった工業所有権で問題になります。あるいはコスプレを広告やサービスに利用すれば不正競争防止法に触れる可能性もあります。 ただし、「ありふれている衣服は著作物にはならない」ということはファンは知っておいてもよいと思います。たとえば「どこにでも売っていそうな黄色いポロシャツ」は著作物の要件である「創作性」を満たさないので、それが「のび太くんの服」と似ていたとしても漫画『ドラえもん』に関連する著作権の権利侵害にはなりません。