ファンカルチャーと知的財産法の展望―ゲーム実況、キャラケーキ、コスプレ―
◇著作権者の許諾が得られない場合は? では、ファンが権利者の許諾を得ようと思っても得られない時はどうすればよいでしょうか。以下のようなケースが考えられます。 個人経営のバーがレトロゲームの愛好家を集めて、約40年前に発売されたゲーム機で遊ぶ交流会を計画しています。参加費を徴収すると営利目的となり上映権を侵害するため、主催者は事前に許可をもらおうと考えました。ところが調べてみると、そのゲーム会社は統廃合の末に十年以上前に消滅していました。今は誰が権利を持っているのか全く検討もつきません。 この場合は、知的財産法上で一応の手当がされています。権利者不明の著作物(オーファンワークス)は、著作権法67条の規定に基づいて申請して文化庁長官から裁定を受け、補償金の供託など所定の手続きを行えば利用できる仕組みになっています。 知的財産権というと「財産の保護」の比重が大きい印象を持つかもしれませんが、著作権法第1条に〈文化の発展に寄与することを目的とする〉と書かれているように、人々の利用をいかに促進するかも大切な法律上の目的です。 二次創作としてのファンカルチャーにかんして言えば、やはりエンタテインメントはファンあってのものですし、ファンの活動によって潜在的マーケットが開拓される相乗効果も期待できます。権利者が利用者のあらゆる行為に対して権利行使すると、社会的にも疑問を持たれますし、ファンの萎縮で結果的に権利者側が損をするかもしれません。 その意味において、権利者側が二次利用のガイドラインを積極的に公表していく昨今の流れは、非常に良いことだと私は考えています。手間はかかりますが、利用者の利便性や文化的影響を考慮すると、権利者と利用者側の意見を集約・調整して作成するのが理想的です。 しかしながら、近年の事例を見てもわかるように、黙認や暗黙の了解によって保護と権利の「絶妙なバランス」が成り立っているということは、どちらかに傾くと一気に崩壊しかねないということでもあります。法律的には安定性と予測可能性が担保されている状態のほうが望ましいので、このバランスのメカニズムを分析することが、私たち研究者のなすべき仕事のひとつだと考えています。 また、一般的に諸外国の法律では「商業的規模」で著作物を利用した場合に刑事罰が適用されますが、日本の著作権法119条以下の罰則規定には、一部の行為類型を除いて「商業的規模」やそれに類似する文言がありません。つまり、現状では刑事罰となるラインが曖昧なので、検察の運用を明確化するなどして範囲を限定する必要があると思います。 法改正で著作権法違反の一部が非親告罪化したこともあって、これから二次創作としてのファンカルチャーと刑事罰のあり方の研究はより一層重要になるでしょう。 現在、明治大学法学部の金子敏哉先生が研究代表者となって、著作権法罰則の運用実態を把握し諸外国と比較する共同研究を行なっています。権利者を保護しながらも利用者を萎縮させない、そんな文化の発展に貢献する研究ができればよいと思っています。
今村 哲也(明治大学 情報コミュニケーション学部 教授)