87歳母を60代息子が殺害 介護いらず“穏やかな2人暮らし”だったが…「テレビがきっかけ」将来に不安募らせ犯行に
介護に関するテレビ番組がきっかけで不安に
表面上は何の問題もなかった被告人と母親の2人暮らしだったが、事件の1年ほど前にテレビで介護に関する番組を見たことをきっかけに、被告人は「自分には(母の介護が)できない」と不安を募らせていく。 事件の半年ほど前には精神的に落ち込み、それまで当たり前にできていた掃除ができなくなった。夜も眠れなくなったことから、事件の2週間ほど前には精神科クリニックを受診。中等度のうつ病と診断され、抗うつ剤と睡眠薬を処方されたものの改善せず、約1週間後に再診している。 この時の被告人の様子について、面談を担当した精神保健福祉士は「『怖い』という言葉が繰り返し出てくる」と記録していた。
「やめて」怖がって逃げる母親を追いかけ、首を絞める
次回の受診予約もしていたものの、その日を迎えることなく、事件は起きてしまう。 当日午前11時頃、めまいがすると言って座ったまま10分ほどじっとしていた母親を見て、「自分が介護できないとお母さんがかわいそうだ」と思った。そしてパニックになり、台所へ移動した母親の首に手をかけようとする。母親は「やめて」と怖がって逃げたが、それでも首に手をかけ、あおむけになって倒れた母親の首を両手で、さらには電気コードで絞めつけて殺害した。 その後、自らも命を絶とうと思っていたができず、110番通報。初公判では、この時の通話記録も証拠として再生された。「母親を殺してしまいました」という被告人の震えた声で始まったその音声データからは、自宅の住所を間違えるなど激しく動揺した被告人の様子が伝わってくる。応対した担当者から「落ち着いてください」などと言われているうちに被告人の自宅へ警察官が臨場し、約7分間の通話は終了した。 なお逮捕直後、被告人の手の甲には、母親が抵抗した際についたであろう、まだ新しいひっかき傷が残されていたという。 母親の将来の介護に不安を募らせ犯行に至った被告人だが、もし介護が必要になった場合にどうすればよいのか、母親本人や行政機関などに相談することはなかった。被告人は法廷で「今思えば福祉に相談しておけばよかった」「(介護が必要になった際には)母に施設に入ってもらうなどの選択肢があったことが今なら分かる」と後悔を口にした。 判決は11日に言い渡される予定だ。
弁護士JP編集部