田家秀樹語る、吉田拓郎がアルバムで自らライナーノーツを書く意味
なぜ発売順に曲が並んでいないのかということがわかるライナー
全部だきしめて / 吉田拓郎 1998年のアルバム『Hawaiian Rhapsody』の中のバージョン、トロピカルバージョンですね。作詞が康珍化さん。1996年から始まったテレビ番組『LOVE LOVEあいしてる』の主題歌。やったことのない一つが、テレビのレギュラー番組で『LOVE LOVEあいしてる』でKinKi Kidsとか篠原ともえさんとか、若いやつは嫌いだって言っていた人が若い人たちを好きになる。彼らとの出会いが人生観を変えた、そんなアルバムでしたね。一昨年に音楽活動引退を彼が宣言して出したアルバム『ah-面白かった』の中にはKinKi Kidsも篠原ともえさんも参加していました。 この曲のライナーノーツは長いですよ。見開きですね。書かれているのは番組のことではなくて、ハワイのことですね。これは個人的なことなのですが、僕も拓郎さんに影響されたことがたくさんあって、実は彼はこういう話をされるのが一番嫌いなんです(笑)。それはお前の人生で、俺には関係ないよというのが一貫した彼の姿勢ですから、嫌がられるのは承知でいろいろな影響をされていますけども、ハワイのよさを教えてくれた、再発見させてくれたのも拓郎さんですね。50歳の誕生日に番組のリスナーのカップルを招待してハワイで誕生日をやろうと、僕は番組の構成をやっていましたから同行出来て、ハワイの見方が変わりましたからね。このライナーノーツの中にも自分の好きな場所とか、ホテルとか、いろいろな思い出を書いています。一番多く字数を費やしているのがマウイ島ですね。マウイ島が大好きだった。でも山火事で大好きだったラハイナが全焼してしまった。ラハイナへの追悼文ですね。これはぜひ読んでいただけたらと思います。 この曲が8曲目で、次の9曲目に1973年の「伽草子」が入っていたんですね。ライナーを見たときになんでこれがここに入っているんだろうと思ったのですが、バージョンを聴いてライナーを読んで納得しました。「伽草子」は1997年のアルバム『みんな大好き』、「LOVE LOVEあいしてる」のバンド、LOVE LOVE ALL STARSでのリメイクアルバムなんですね。ライナーノーツはとてもしみじみしたライナーなので、内容は言いません。なぜ発売順に曲が並んでいないのかということがわかる、そんなライナーです。Disc2の10曲目をお送りします。 車を降りた瞬間から / 吉田拓郎 瞬間と書いて「とき」です。1990年1月に出たアルバム『176.5』の中の曲ですね。詞曲は拓郎さんです。曲目を見たときに、なんでこの曲が選ばれているのかなと思ったりもしたんですけども、ライナーを読めばわかりますね。内容は言いませんよ。車を降りた瞬間(とき)から何が始まったのか。その車は誰のどういう車だったのか。ライナーを読んでいて、これは先週は気がつかなかったんです。今週になって気がついたことがありました。 こうやって紹介するときにはDisc1の何曲目と言っていますけども、ライナーノーツには通し番号が入っていたんです。つまりこの曲、「車を降りた瞬間から」は「23」なんですね。あ!と思ったんです。ライブの選曲みたいな選び方なのかもしれない。つまり、Disc1の1曲目ということではなくて、ライブの1曲目。23曲目はこれだなと。そういう選び方をしてるのではないか。それに加えて何を言いたいかということで曲を選んでいる。2つの理由があるんだなということにDisc2で気づきました。拓郎さんが選んだのは全25曲です。26曲目はボーナス・トラックで、このボーナス・トラックも含めてライブで自分の音楽人生を語ろうとして選んだのではないかなと思いました。なんで「車を降りた瞬間から」がここにあるのかというのは、ライナーノーツを読むとおわかりになります。そういうコンサートがあるとしたら、本編最後の曲がこれなんだろうなと思ったのがDisc2の11曲目というより、24曲目です。 吉田町の唄 / 吉田拓郎 1992年のアルバム『吉田町の唄』のタイトル曲ですね。新潟県の吉田町というところで、全国吉田町サミットという催しが行われて、そのテーマとして依頼された曲なんですけども、そういう依頼のされ方とは別に自分の家族について歌っている曲ですね。なぜ拓郎という名前になったのかとか、家族というのはどういう存在なのかとか、そういう自分史を綴っていく中では一番重要な曲と言っていいのではないでしょうか。「車を降りた瞬間から」とこの「吉田町の唄」というのが繋がってなければいけなかったというのが、ライナーノーツを読むとわかります。 自分史コンサート、これで本編が終わりで、25曲目の「気持ちだよ」はアンコールという感じなんでしょうね。1999年発売、フォーライフの最後のシングルですね。「気持ちだよ」というタイトルにこめていることを感じ取ってほしい。そんな締めくくりですね。田村仁さん、たむじんが撮った写真が60ページも載っているんですね。この頃の写真がこんなにたくさん載っている、拓郎さんとたむじんさんとの「気持ち」の通い合い方というのも60ページの中に込められております。 26曲目「純情」がボーナス・トラックで入っているのですが、「純情」は1993年に出た拓郎さんと加藤和彦さんのシングルなんですね。この曲のライナーはありません。1曲目の「どうしてこんなに悲しいんだろう」で加藤さんの思い出を綴って、最後のこの曲にはライナーも何もない。「どうしてこんなに悲しいんだろう」をなんで1曲目にしたのか。悲しいということの中にはこういうこともあるんだよということが伝わってくるような、そんな終わり方だなと思いました。こんなに個人的なアルバムはなかったんじゃないでしょうか。「From T」は自分で選曲したベスト・アルバムですけど、やっぱりサービス精神みたいなものがあってリスナーが何を喜ぶかとか、リスナーが聴きたいものはなんだろうということで選んでいる要素があるような気がしましたけども、ここにはそれがないんじゃないでしょうか。アナザーサイド、これがみんなの知らない面だというようなことが26曲に詰まっている。でもここまで個人的なライブはやれなかったでしょうねと思いながらお聴きいただけるとと思います。