田家秀樹語る、吉田拓郎がアルバムで自らライナーノーツを書く意味
自分史の流れの中で欠かせない曲
大阪行きは何番ホーム / 吉田拓郎 1984年のアルバム『FOREVER YOUNG』の中の曲ですね。これぞ拓郎節。そんな1曲ですね。拓郎さんのアルバムの中では『FOREVER YOUNG』は80年代を代表する1枚として知られています。アルバムの中に「one last night」という曲があるんですけども、その曲のタイトルのオールナイトイベントが1985年の7月に行われました。「ONE LAST NIGHT IN つま恋」。この曲のライナーは短いです。実は先週ちょっと明かしすぎたかなという反省がすごくありまして、今週はあまり中身には触れません。この曲のライナーは一番短くてわずか6秒ですね。でも、「そこ」という場所が繰り返されるんですね。この「そこ」がどういう意味でどういう場所なのかは曲を聴いてから考えていただければと思います。僕は自分なりの答えはあるんですけども、それはもちろん言いません。ご自分でお考えください。人は何かを捨てることで大人になって、それもまた捨てる日が来る。そんな歌だなと思いました。 Disc2は「夜霧よ今夜もありがとう」が3曲目。4曲目は1981年のアルバム『無人島で…。』の中の「Y」なんです。これもアルバムにはあまり入っていませんね。ライナーのテーマは引っ越しです。その後にこの「大阪行きは何番ホーム」が入っているんですね。ですから、そういう曲の流れで何を言いたいのかなということがわかってくる。そんな流れにもなっていますね。6曲目はその「つま恋」から10年後、1995年のアルバムの中の曲です。 とんとご無沙汰 / 吉田拓郎 1995年のアルバム『Long time no see』の中の「とんとご無沙汰」。アルバムのタイトル『Long time no see』は久しぶりという意味ですね。この曲は日本語で「とんとご無沙汰」。作詞が阿木燿子さんですね。90年代に入って4枚目のオリジナル・アルバムでレコーディングがバハマ、コンパス・ポイント・スタジオ。ボブ・マーリー、ローリング・ストーンズで知られるようになったスタジオでした。ミュージシャンがドラム、ラス・カンケル、ベース、リー・スクラー、ギター、デヴィット・リンドレー、キーボード、クレーグ・ダーグ。ジャクソン・ブラウンとか、リンダ・ロンシュタット、ウエスト・コーストのアサイラム系のロック・アルバムでお馴染みのウエスト・コーストの巨人たちが揃いました。 このレコーディングはプール付きの豪邸でニューヨークから日本食の料理人も呼んで合宿したという、そういうレコーディングだったんですね。本当に幸いなことにこのレコーディングを取材させてもらったのですが、そのときにどんな50代を迎えるかという話をしきりにしておりまして、やったことがないことをやりたい。この『Long time no see』の中にはみゆきさんが書いた「永遠の嘘をついてくれ」が入っていました。彼は詞曲を人に依頼したことはない。詞だけお願いしたりはしているんですけど、両方依頼したことはなくて、それをみゆきさんに頼んだ。そんなアルバムでしたね。ライナーノーツは当然そのときのことが書いてあります。これも長いです。その中に例えば、「当時僕はレコーディングにもツアーにも熱を感じないつまらないおっさんが入り口に立っていた」。こんな一文がありました。 マスターの独り言 / 吉田拓郎 やはりアルバム『Long time no see』の中の曲ですね。この『Long time no see』は自分が若い頃に憧れていた、本当によく聴いていた、こういう音楽をやりたいと思っていたアーティスト、アルバムに参加していたミュージシャンと一緒にやっているんですね。50を前にして若い頃に憧れたミュージシャンと一緒にもう一度音楽を作ってみたい。彼らも同じように年を取っているわけで、メンバーのインタビューもしているのですが、そのときにラス・カンケルが言っていたのかな。このレコーディングは俺たちにとってもリ・ユニオン、同窓会アルバムなんだって言ってたんです。つまり彼らも若い頃に一緒に、ジャクソン・ブラウンとかリンダ・ロンシュタットとやっていて、そこからバラバラでビッグ・ミュージシャンになって一緒にレコーディングをやる機会がなくなっていたんだ。でも、拓郎がこういう機会を作ってくれて本当にうれしいという話をしていたのは覚えていますね。 拓郎さんはライナーノーツの中でこのレコーディングを通じて、僕のその後のエネルギーを再燃させたことは間違いない事実というふうに書いています。この「マスターの独り言」もそういう若い頃から通っていた実在のお店、六本木のお店で名前もライナーには載っていますね。自分も歳を重ねて、50前になって昔から知っているマスターと俺たちも年取ったよなって話をしている、そういう雰囲気の曲ですね。このライナーの中にはそのお店だけではなくて、六本木と言えばかまやつさん。かまやつさんは六本木の主でしたからね。かまやつさんの思い出というのも書かれております。 自分でこの曲を聴きながら、あの頃を思い出している、そんな感じのライナーノーツですね。そういう自分史の流れの中で欠かせないのがこの曲でしょう。Disc2の8曲目です。