「二宮和也の伝説」と「佐藤勝利の努力」…オーディション番組「タイプロ」を見てよくわかった「やはり本物は違う…!」
二宮和也の伝説
ここまでを振り返ると、総じて、自己中心的な人間は落ちていき、周囲に、そしてtimeleszに、ひいてはこの伝統的な事務所の色を読み取り、合わせることのできる人間が残っていっているようだ。アイドルの経験を持った候補生も多いが、そこに過度のプライドを持たずに、合わせられるかどうか。 それは実は、ベンチャー企業の新卒採用よりも、老舗企業の中途採用に近いように思う。 老舗企業の中途採用では、会社の歴史や文化を学び、そこに敬意を払った上で仲間になろうとする人間が採用され、歓迎される傾向にある。 一方で、「自分がこの会社を変えよう!」「ここで一旗揚げよう」といった人間は敬遠される。 もちろん、そういったタイプが悪いと言っているわけではない。 こういったタイプの人材は、実はベンチャー企業の新卒採用では評価が高いのだ。新しい風を吹かせてくれたり、周りに刺激を与えてくれたりするような人。仮に数年でいなくなったとしても、採用してよかったと評価されることも多い。 timeleszは改名こそしているが、グループ自体には13年の歴史があり、魅了されているファンもたくさんいる。すでに文化も歴史もあるグループに加わる仲間を彼らは求めているのである。そこに、自分が成功するためにtimeleszという場をうまく利用しようとする人間や、過度に自分のテイストを出して、グループ自体の色を変えようとする人間はいらないのである。適度なリニューアルは必要だが、新たな風を吹かせすぎても、老舗企業からは顧客が離れていってしまうのだ。timeleszを企業だと考えると、その企業文化を大事にすることは、ひいてはお客様=ファンを大切にすることにも繋がるのである。 一方で、実はジャニーズJr.のオーディションは、ベンチャー企業の新卒採用の要素も持つものだった。 たとえば、嵐の二宮和也がオーディションを受けた際には、会場で踊らないでいたという。 「何で踊らないの?」と聞かれても「俺はここに来たらゴールだから気にしないでくれ」と返したという。(日本テレビ『嵐にしやがれ』2020年12月5日放送) 二宮のように、人と違う振る舞いや、一見協調性がないような振る舞いをしてもオーディションに通過したという逸話は多く存在する。 それは、ジャニーズ事務所自体が、本質的に新しいものをもとめていたからでもある。本稿はここで終えるが、実は創業者自身が「ジャニーズはこうだよね」という決めつけを嫌がり、グループごとの個性が重ならないようにしていた――という話は、拙著『夢物語は終わらない ~影と光の“ジャニーズ”論~』に詳述した。 他にも「顔だけで評価されるわけではないジャニーズ」の象徴のような話や、顔やスキルじゃないのであれば何が彼らを他のアイドルとは違う特別な存在にさせているのか――という、今だからこそ書ける新たな“ジャニーズ”論でもある。そして、timeleszがその伝統を打ち破るまで、なぜこの事務所ではデビューしたグループに新メンバーを入れるということをしてこなかったのか――。このオーディション番組に熱狂している人が持つであろう疑問の答えも、本書の中に入っている。
霜田 明寛(作家・文化系マガジン チェリー編集長)