「借金王」から始まった!知的障害者と作るチョコレート革命の奇跡
夏目 生活介護へ行かれる方々は、工賃1万5000~6000円(注3)の母数に入りません。つまり、工賃を払っても支払わなくてもいいというような仕組みになっています。民間団体の調べでは、彼らが貰うのはだいたい月額工賃3000円(注4)ぐらいではないかと言われますが、本当に3000円の価値なんでしょうか。僕らはそこに一石を投じたいと思っているんです。 注3 厚生労働省が発表する就労継続支援B型事業所の2020年度の平均工賃は、1万5776円で、時間額にして222円。2021年度の平均工賃は月額1万6507円、時間額にして、233円。 注4 就労継続支援B型事業所の最低工賃が月額3000円と決まっている。工賃は原則として給付費から支払うことはできないため、生産活動で利益を出さなくてはいけない。 大川 5万円の工賃と年金を合わせると、どれくらいの収入になりますか。 夏目 年金をあわせると約13万円ぐらいですね。 大川 重度の方には、親御さんが先に亡くなった後にどうやって自立して生活していくんだという大問題があります。だけど今は大前提として「みんな仕事ができない」という共通認識になってしまっています。だから解決策が見えていません。 ● 社会がちょっと寄り添えば 上を向ける人たちがたくさんいる 夏目 よく、「すごいことをやっていますね」と感心されるのですが、僕らはそんな感想が欲しいわけじゃないんです。久遠チョコレートの事例を、豊橋という田舎の小さな一ブランドの話で終わらせてはダメだと思っています。 障がい者は働けないわけではないし、責任のある仕事を任せられないわけでもありません。弊社にはいろんな産地のチョコレートにドライフルーツやナッツなどを混ぜた「QUONテリーヌ」という人気商品がありますが、これらはすべてスタッフが手で切っています。
この看板商品の一番難しい工程は最後のカットですが、ここも障がいのある方にお任せしています。高校時代から働き始めて5年間、真面目にコツコツ取り組んできてくれたから、カットすべき最良のタイミングがわかる。だから安心してお任せしています。 大川 障がいのある方が仕事をすることで変わっていくこともありますか? 夏目 あります。パウダーラボでナッツの下処理をお願いしている人は、最初は立ち仕事の経験がなかったため座って仕事をしていました。でも、1カ月も経たないうちに自分の役割や存在意義をみつけて、今はみんなと一緒に立ち仕事をしています。 大川 素晴らしいですね。 夏目 箱作りをおまかせしているのは区分6の方です。もう熟練しているので手元を見ない「ノールック」で箱を大量に折ってくれています。 大川 ブラインドタッチで、歌いながら作業をしていて、めちゃ楽しそうでした。 夏目 ピタッとハマリましたね。最初は多動特性(注5)も頻繁に出ていたのですが、箱折りを始めてからは、ほぼ座ってお仕事をしています。商品を包装する六角形の箱は何万箱も折るので今までは外注していましたが、折りが弱かった。しかし、彼はしっかり早く折ってくれます。誰かに必要とされることは、本当に人間を幸せにするのだと思います。 注5 じっとすることや静かにしていることを苦手とする特性。騒いだり、動き回ったりと落ち着きがなく、突発的な行動をしてしまうこと。 大川 医療的ケアだけでなく、社会がちょっと寄り添えば上を向ける人たちがたくさんいるんですよね。
大川 豊(大川興業総裁)/夏目浩次