「借金王」から始まった!知的障害者と作るチョコレート革命の奇跡
夏目 2014年です。異業種交流会でショコラティエの野口和男さん(注1)と偶然出会ったことがきっかけでした。野口さんから「正しい素材を正しく使えば、誰にでもおいしいチョコレートは作れる」と教えてもらったんです。 注1 高級レストランやファッションブランドのチョコレートをプロデュースするトップショコラティエ。人材育成やチョコレート文化普及のための活動も行う。久遠チョコレートのチーフショコラティエを務める。 大川 障がい者の就労支援というと、補助金が出るのでパン屋さんをやりがちです。でも、実際のパン作りは工程も複雑で大変だから、結局、健常者の職員がフルで働いてパンを作ってしまう状況をいろんなところで見聞きしてきました。 夏目 パン作りは最後の工程の「焼き」で失敗すると、もう捨てるしかありません。だから厨房にはものすごい緊張感が走ります。賞味期限が短いから、売れ残りが出ると困るし、単価も高くない。ところがチョコレートはカットを失敗してもいいし、形がおかしくなっちゃったら、もう1回溶かしてやり直せばいいんです。 大川 何度も溶かして味は落ちないんですか。 夏目 数回までなら大丈夫です。変なプレッシャーや緊張感を排除できるので、障がいがある方でも自分のペースで働けます。作る過程で誰も排除しない食材です。 大川 再チャレンジもできる食材なんですね。 夏目 チョコレートは値段も高いので、もともと粗利率が高いんです。パンは1つの商品を作るのに4~5時間かかります。失敗もあるし、火傷をする可能性もある。
ところがチョコレートは1つの商品を作るのにかかる時間は約40分。40分で3万円分の商品を作ることができます。 加えて単純作業の繰り返しで作れることも特徴です。工程を分解できるから、3人で分担して作ることもできます。1人で黙々と全工程をこなして作る人もいます。利益率が高いから、労働生産性が落ちません。 ● 「障害が重いから働けない」 というロジックは間違っている 大川 夏目さんに案内していただいたパウダーラボでは、重度の知的障がいがある方々が働いていました。区分(編集部注/障害支援区分)でいうと、いくつぐらいの方が働いているんですか。 夏目 区分5~6(編集部注/数字が大きいほど重度。区分判定を受けた知的障害者のうち、区分5が約20%、区分6が約30%。厚労省「障害支援区分の審査判定実績」より)の方が多く働いてくれています。1人暮らしをしていて、家から40分くらい歩いて職場に通っている人もいます。 大川 平均すると工賃はいくらぐらいになりますか。 夏目 パウダーラボでは、1日5時間働いて、22日仕事に来ると5万円以上になります。 大川 工賃で5万円はすごいですね! 夏目 生活介護(注2)と言われるところへ行かれている、障がいが重い方もたくさん働いてくれています。世の中的には「障がいが重たいから働くことは難しいよね」というロジックになっていますが、それは絶対違うと思っています。 注2 生活介護とは、障がい者福祉サービスのこと。食事・入浴・排泄など基本的な生活を支援する介助サービス。 大川 自分もその考え方に賛成です。