頭のいい人は知っている「生前贈与の基礎知識」
本来、特別受益となる生前贈与があれば、遺産分割の際、遺産に特別受益を持ち戻して相続分を決めるのが原則です。しかし、もしも贈与した人が、「生前贈与はするけど、私が死んだときに特別受益として持ち戻さなくていいよ」という意思表示をしていた場合には、持ち戻し計算は免除されます。これを特別受益の持ち戻し免除の意思表示と言います。 先の例でいえば、長女に贈与した2000万円について、母が持ち戻し免除の意思表示をすれば、実際の遺産分割の際には4000万円ずつを長女と長男で分けることになります。 法律上、この制度は口頭だけでも成立するとされていますが、口頭だけだと「言った・言わない」の水掛け論になることが明らかなので、持ち戻し免除の意思表示をする場合には、その旨を書面に残したほうがいいでしょう。「うちの子どもたちは平等にしないと揉めるかもしれない」と感じるのであれば、生前贈与分も加味したうえで平等に分配しましょう。 2019年7月1日より、婚姻20年以上の夫婦間で自宅の権利を生前贈与した場合には、特別受益の持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されるようになりました。例えば、夫名義の自宅土地建物の権利の一部または全部を、妻に生前贈与し名義変更をしていた場合には、夫に相続が発生した際に、妻に名義変更されている自宅の権利は、特別受益の持ち戻しの対象から外れることになります。この改正のポイントは「推定」です。持ち戻し免除の意思表示があったかどうかにかかわらず、意思表示があったものとみなして、持ち戻しは免除されます。 特別受益の考え方は、夫婦間の贈与にも適用されます。問題が起こりやすいのは、前妻との間の子と後妻の間柄です。夫から後妻に生前贈与が行われていた場合、前妻の子は相続できる金額が減るので、後妻に対する生前贈与を特別受益として扱うべきだと主張することがよくあります。 この改正には、高齢化社会を鑑みて、配偶者の生活保障をより手厚くしようという狙いがあります。相続争いは兄弟姉妹の間柄だけでなく、親子の間でも起こりえます。争いを避けるためにも、この民法改正の内容はしっかりと押さえておきましょう。 年末年始、終活や相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。 (本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・追加加筆を行ったものです)
橘慶太