「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第5回 『「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」』より続く
誰もが「外付けの知能」を持っている
羽生誰もがスマホを持っていて、それはある意味外付けの知能を持っているということでもある。そういう意味では、今後、私たち人間は「知能」とか「知性」をもう一度定義しなおさなければならなくなるかもしれません。人類の歴史は「高い知能を持っているのは人間だけ」という前提でここまで来ました。 でも将来、AIのIQが3千とか1万になると言われています。すると、その前提が崩れるかもしれません。「この分野でAIは人間以上のことができる」とか「これは人間にはできても、AIにはできないだろう」といった議論をしているときに、「では人間が持つ『高い知能』の知能とは、いったい何なんだろう?」とあらためて考えざるを得なくなると思います。 でも「知能とは何なのか」と問われると、結局わからない、という結論にたどりついてしまいます。人間には「実現はできるんだけれど説明できない」とか、「実際に思っていることや感じていることでも、すべてを言葉で表現することはできない」といった分野があまりにも多く残されているように思います。 山中まさにブラックボックスですね。
AIと人間の協力は果たしてユートピアか?
羽生ただ、AIの進化によって人間の知能と対比するものが出てきたことになりますから、人間の知能の姿をあぶり出す可能性はある気がします。これまでは比較する対象がなかったので、「知能とは何か」については答えが保留されていましたが、AIという比較対象を得たことで、「知能とはこういうものだったのか」と人間の知能の本質にアプローチできる可能性が出てきました。 「人間の知能の正体を探究していけば、人間の知能と同じようなAIを作ることができるはずだ」と考えて研究している人たちも、かなりいます。 山中AIと人間が協力し合う世界では、どういう可能性が生まれるんでしょうか。 羽生そこに私は関心があります。たとえば、アメリカでAIを活用した防犯パトロールの事例があります。全米でも犯罪発生率が高い街のことです。人員も限られているため、犯罪の発生地域や頻度などさまざまなデータを基に、AIに「今日、どこにパトロールに行けばいいか」を決めてもらったそうです。 ベテラン警官が「なぜ犯罪なんか絶対に起こりそうにない閑静な住宅街に行かなきゃいけないんだ」と言いつつ、AIの指示通りにパトロールに行くと、なぜか怪しい人がいて、まさに犯行に及ぼうと……。結果的に犯罪発生率が劇的に低下したそうです。 SF映画の『マイノリティ・リポート』を思い出しました。AIが「殺人を犯す」と予知した人間を事前に逮捕するようになっているという、ある意味とんでもない近未来社会を描いています。