散乱した部屋に亡き妻の骨壺残し… 街にあふれる「孤独死予備軍」 「薄縁」時代㊥
警察庁によると、今年1~6月に自宅で死亡した1人暮らしの人は3万7227人(暫定値)。このうち65歳以上が2万8330人と全体の8割近くを占め、警察の死亡認知までに15日以上かかった人は約2割(4913人)に上った。
特殊清掃業を担う「武蔵シンクタンク」(八王子市)代表の塩田卓也さん(53)の下には、物件のオーナーや不動産関係者などから依頼が絶えない。
業務を請け負うのは、孤独死の現場だ。誰にも見つからず、数週間~1カ月近く故人が放置されていた家に入ることも珍しくはない。部屋は死臭が染みつき、腐敗した遺体が横たわっていた床部分から下の階まで体液が漏れ出してしまっていることもある。
塩田さんはそこで、持てる技術を駆使して臭いや汚れを落とし去り、部屋を元の状態へと回復させていく。
孤独死現場の多くは1人暮らしの高齢者宅だ。自分の世話を放棄する「セルフネグレクト」と呼ばれる状態に陥ってゴミの山と化した屋敷。飼い猫の多頭飼育でふん尿にまみれた家。豪華なタワーマンションの一室で孤独死に至る人もいる。
一方、孤独死に至るのは1人暮らしの高齢者ばかりではない。80代の親を在宅介護していた50代の子供が家で倒れ、死亡した親子が1カ月近くたって見つかったケースもあったという。
孤独死の現場は原状回復に数百万円かかることもあり、物件関係者がこうむる負担は大きい。途方に暮れる依頼主から相談を受け、現場に入る。
塩田さんの下に寄せられる相談は約10年前は年間50件ほどだったが、現在は3倍近い。猛暑となった今夏は、特殊清掃業の依頼が1日に8件寄せられることもあった。
社会が抱える「暗闇」に向き合う日々を支えるものは何か。塩田さんは言う。
「誰かがやらなければいけない仕事。使命感です」(三宅陽子)