「リオ五輪前、リオ五輪以上の強さ」で73キロ級金メダル“無双”大野将平が制したもう一つの内なる戦いとは?
柔道の世界選手権の第3日、男子73キロ級でリオ五輪金メダリストの大野将平(27、旭化成)が決勝でルスタム・オルジョフ(27、アゼルバイジャン)を内股の1本で下し初戦からオール1本勝ちで3大会ぶり3度目の金メダルを獲得した。日本のエースと呼ばれる五輪王者ゆえの内なる戦いを乗り越えての価値あるV。柔道に絶対はないが、東京五輪で負けられない種目にひとつ金メダルの計算が立った。
「勝ったからこそ気を引き締める」
ニコリともしなかった。 決勝の相手はリオ五輪の決勝と同じオルジョフだった。開始1分17秒。伝家の宝刀、内股。右足をねじいれると、同時に腕を引き、足を跳ね上げた。美しく、そして豪快に投げ伏せた。73キロ級の絶対王者は、「1本」の声にも表情を変えず、なんら喜びを表現しないまま畳を降りた。日本武道館を震撼させ、やがて歓声を浴びると控室への通路を歩きながら一度右手を挙げただけ。 「優勝するだろうと思って試合に臨んでいたので、特に何の驚きもない。優勝したからといって何かが変わるわけではない。勝ったからこそ、気を引き締めて明日から稽古していく」 まるでタイムスリップしたかのような武道家である。 この4年、打倒・大野に燃えていた相手に3度、同じ技を仕掛けた。防ごうと構えていたアゼルバイジャン人に何もさせなかった、いや正確には、何もできなかった。 強い。それも突き抜けたような強さだ。 初戦の2回戦からオール1本勝ち。4回戦は、ロンドン五輪66キロ級金、リオ五輪73キロ級銅のラシャ・シャフダトゥアシビリ(ジョージア)を大外刈りで倒し、準々決勝では、ビラル・シログル(トルコ)を相手に先に指導を受ける展開から、全日本男子の井上康生監督が「寝技の精度が上がった」と成長を評価する腕ひしぎ十字固めで左腕を決め1本勝ちした。準決勝のデニス・イアルチェフ(ロシア)戦は、5年前に一度負けた相手。2度、内股で倒し、いずれも「技あり」の判定が出たが、その後、不完全とみなされ取り消しとなった。 「負けるかなと。嫌な流れ」。その空気を巴投げからの抑え込み1本で断ち切った。 立って良し、寝て良し、そして動じぬ強い精神力。 それでも自己採点は「階級と同じ73点くらいで」という。なんたる向上心。驕ることなき柔道家を「無双」と言うのだろう。