タコ養殖反対派の急先鋒 米・マイアミ大学ジャクエット教授に聞く
アメリカ西部カリフォルニア州で27日、タコの養殖や養殖タコの輸入を禁止する法律が成立しました。日本を含め世界各地でタコの養殖技術の研究が積極的に進められる中、なぜ法律レベルでの禁止に踏み込んだのか。先月、『サイエンス』誌に掲載された100人の学者や作家らによるタコ養殖の禁止を支持する書簡を主導した反対派の急先鋒、マイアミ大学ジェニファー・ジャクエット教授に話を聞きました。インタビュー全文は以下の通り。(聞き手・岡田光弘)
▼Q:タコ養殖に反対する理由は、いくつかあると思いますが、まずは倫理面から教えてください。 A:私は動物すべてを道徳的に見ているが、最も強い道徳的論拠は、タコはあまりに洗練され、知的で、好奇心旺盛で、飼育下で良い暮らしをさせるのは難しいというタコの特徴にあると思う。これは、ここ数十年のタコに関する科学的研究によって明らかになった。タコの養殖という行為は、もちろん個々のタコに害をもたらすが、社会的にみれば、タコが本当に必要な人々にとっての利益であるという点から、それを正当化することもできるだろう。でも、この場合、養殖されるタコは非常に高級な市場向けであり、高値で取引され、必然的に空腹でもない消費者の手に渡ることになるだろう。 ▼Q:タコが洗練されているということですが、その知性について教えてください。もちろん、彼らは話しません。ではタコは何ができるのですか? A:まずはっきりさせたいのは大量生産される動物の多く、豚も牛も鶏も知性があるということ。私たちはこのことを知っているし、その根拠もある。しかし、私たちはこれらの動物の巨大な産業的な家畜システムを既に持っており、それを明日、停止することはほぼ不可能だ。この点において、タコ養殖はまだ実現されておらず、研究段階なので、介入するチャンスがある。タコの知性について、瓶を開けることができる、サメを出し抜くことができることなどがある、アメリカに暮らす多くの人は、映画 "My Octopus Teacher"(邦題:オクトパスの神秘:海の賢者は語る)を見たことがある。この映画はセンセーションを巻き起こし、世界各国で大量生産が検討されているマダコが、生息地でどのように行動しているか、その生態を垣間見た。タコの知性がすごいのは、私たちヒトと違って、大人から教えられたり、社会的に学んだりしないことだ。映画のシーンにもあったが、私たちはタコが遊び好きであること、脱出の芸術家であることも知っている。タコの知性はたくさん記録されている。タコが私たちが産業生産システムに組み込んでしまった他の知的動物と違うのは、それが産業になる前に、今この瞬間に介入するまたとないチャンスがあるということだと思う。 ▼Q:タコには記憶力もありますか? A:彼らは素晴らしい記憶力を持っている。彼らは個人を認識し、人によって態度を変える。ある個人に対して、他よりも好奇心を示す。明らかに個体間には性格の違いがあり、そういった所から、彼らの知性の多くは私たちヒトが非常に理解しやすい。そのほかでいうとタコの知性はまったく異質なものだ。彼らがカムフラージュ、背景環境に合わせて体を変化させたりできることは、私たちには想像できないことだ。体全体に分散した意識や記憶、分散した神経系を持っているということや、彼らが柔らかい身体で、様々な形を作り、小さな隙間も通り抜けることができるということなどは、骨格を持つ私たちには想像もつかない。タコは、私たちが共感できるような洗練された行動もとるし、一方で私たちにとっては本当に驚くべき、異質な行動もとる。