「騙されないよ!」にしおかすみこが認知症の母から疑われた話と「トイレ事件」
「いってたの」?
行ってた?言ってた?どっちだ。言われたもん、かと漢字を当てはめていると、すでに理解している母が「誰に?」と。 「パパ」 それを聞いた途端、母がすっとんで階段を上がる。と書いたがそんな勢いなだけで、速度は遅く、手すりにつかまりながら「クソが! ろくな事言わない! どうせ酔っ払って、起き上がりもせずに声だけかけて世話してるつもりなんだろ! 何もしないんだから黙って寝てろ!」と、文句だけがダッシュで駆け上がっている。 さっそく揉める音の塊がボンボン落ちてくる。 「僕はお姉ちゃんが寝てるのが目に入ったから、今日は行かなくていいのか?と言っただけだ!」 「だから日曜日!」 「何曜日かなんて僕には関係ない!そんな次元で僕は生きてない!文句があるなら出て行け!消えろボケ!」 この落石だけ、カチンと私の頭に当たる。ジジイ、2次元の紙みたいにペラペラにのすぞボケが!と乱れた言葉を投げ返したくなる。いや関わるな。うんざりだ。 「ハァァ~」と両手を腰に当て、肩を落としぼんやりしていると、その空いた両脇を何かが這った。ゾワッとし、え?何?虫?っと目をやると、人の指だ。姉が背後からくすぐっていた。しかも丁寧に「コショコショコショ」と口でも言っている。 実家に戻り3年。姉がじゃれてきた。そして二カッっと笑い「パパに だまされたの~」。……もぅ、すぐ母のマネをする。騙してはいないよ。あまり好きな言葉じゃないなあ。
「ヒャー!」
昼すぎ、遅めの仕事で都内へ。玄関の三和土で腕に日焼け止めを塗ったり、虫除けスプレーを振っていると、母のすっとんきょうな声が聞こえてきた。 「ヒャー! もう誰?? トイレの床におしっこしたの!」 耳を疑う。そんな人いる?!……それが本当なら、誰?そこまでおかしくなってしまった人は……。 聞かなかったことにもできず、多少時間にゆとりはあるものの、焦りながら履いていた靴を踏み脱ぎ確認しに行く。 「すみ、ちょっと見て!」という言葉に反して、トイレのドア前に立ち往生しているババア。「どいて、じゃま」と言ったら、キョトンと首を傾ける。何だそれは。押しながら脇へズラす。動け、居酒屋のたぬきの置き物か。 改めて床を見る。確かに便器周りに小さな水溜まりができている。透明なところと、錆びた色をしたところがある。臭いはない?気がする。尿ではなさそう?だ。ひとまず雑巾や掃除シートで拭き取った。どこかから漏れたか?便器のタンクや床の接地面等あちこちを触ってみるもわからない。なんとなく家庭用のドライバーを持ち出し、目についたネジを締め直すも、大して緩んでいない。何だろう? 「ん~もう私、時間切れ。古いし、壊れたのかも。とりあえずこれで様子見よう」と仕舞いにする。再び出かけようとすると、背中にキレのある声が飛んでくる。 「騙されないよ!」 え? 出た。また? ◇ちゃんと「騙されないようにする」ことも大切だけど、信用もしてほしい……。出かけたにしおかさんがその後に見たこととは。 詳しくは後編「にしおかすみこ、認知症母、ダウン症の姉、酔っ払いの父と同居の家で「トイレ事件」に挑む」にてお伝えする。
にしおか すみこ(お笑いタレント)