米朝会談の始まりで「アジアの冷戦」は終わるのか
「冷戦構造」が変化はしても
南北統一という究極の手法に比べれば、北朝鮮が段階的に非核化を進めるのと同時に、アメリカが体制の保証や在韓米軍の撤退などの条件によって朝鮮戦争を終結させ、北朝鮮と周辺国との間で交流が増えることの方が、まだしも可能性として高いといえます。その場合、アメリカにとっての脅威が弱まるだけでなく、東アジアの安全保障上の緊張も軽減されると見込まれます。 とはいえ、北朝鮮が国際的な孤立を解消させた場合でも、「アジアの冷戦」が終わるとは限りません。 ヨーロッパでは冷戦終結後に経済交流が増えましたが、それが結果的にEU(欧州連合)とロシアの間で摩擦を増やし、「新冷戦」と呼ばれる対立が再燃しています。一方、冷戦時代の「鉄のカーテン」は、東西の相互不信の土壌となりました。つまり、交流の増加が摩擦を増やす契機にもなるのと同様に、交流の制限が相互不信の土壌にもなるといえます。アジアに目を向けると、先述のように、たとえ経済交流が増えたとしても、北朝鮮と周辺国の間の「鉄のカーテン」は当面残るとみられ、それは相互の疑心暗鬼を生む背景になるとみられます。 とりわけ日本政府にとっては、拉致問題や北朝鮮に対する日本の戦後賠償問題などで、北朝鮮と交渉や譲歩することは、国内政治的にもデリケートな扱いを求められる課題になります。そのため、少なくとも日朝間の緊張や対立が短期間に解消される見込みは薄いといえます。 こうしてみたとき、米朝協議が進展すれば、朝鮮戦争の終結による在韓米軍撤退の可能性など冷戦構造そのものに変化が生まれることもあり得ますが、北朝鮮が周辺国との交流を増やすことは、東アジアの安定に向けた一歩にすぎず、相互の信頼を醸成するための息の長い取り組みがなければ、「アジアの冷戦」は終結しないといえるでしょう。
---------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo!ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト