米朝会談の始まりで「アジアの冷戦」は終わるのか
「体制保証」がもつ意味
米朝首脳会談で交わされた共同宣言で、トランプ大統領は北朝鮮が求めてきた「体制の保証」を約束した一方、アメリカが求めてきた「非核化」に関しては、「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力する」と記されました。それぞれの最優先の要求を取り引きしたことは、交渉としては現実的といえます。また、アメリカが北朝鮮の現体制の転換を目指さないという約束は、アメリカやその同盟国にとっての脅威である核兵力の無力化とともに、朝鮮戦争を終結させる前提条件となります。 もっとも、この取り決めがただの口約束に終わる可能性もあり、仮に体制の保証が実現したとしても、それは結果的に「アジアの冷戦」を継続させる一因となります。少なくとも、そこには冷戦終結後のヨーロッパとは異なる状況が想定されます。 冷戦の終結後、西欧から東欧への投資や援助が相次いだように、北朝鮮をめぐる緊張が緩和されれば、主に中国・韓国・ロシアなどから北朝鮮への投資が増え、貿易も活発化するかもしれません。とはいえ、北朝鮮で段階的に市場経済が導入されたとしても、金正恩体制が維持されれば、「社会主義市場経済」を標榜する中国の改革・開放に近いものになるとみられます。人民元の為替レートが人為的に設定されるなど、政治と経済が直結しがちな中国式の発展モデルが北朝鮮で採用されれば、市場原理に基づく取り引きが行われるようになった冷戦終結後のヨーロッパと比べて、周辺国とのモノ、カネの移動は政治的な理由で制限されやすいものになるとみられます。 その上、モノ、カネ以上に、ヒトの自由移動の制限は続くとみられます。 ソ連や東欧諸国では、冷戦が終わると、市場経済化や民主化とともに出入国の規制が緩和されました。しかし、金正恩体制にとって、ヒトの自由な流入を認めることは、自らに批判的な考え方が国内に広がるきっかけにもなり得ます。他方、ソ連や東欧諸国では冷戦終結後に出国が自由化され、それにともない多くの人々が各国に流出しましたが、生活にさえ困窮する人々が多い北朝鮮の場合、そのとき以上に多くの難民が流出することにもなりかねません。それは周辺国にとってもリスクとなります。そのため、北朝鮮と周辺国のいずれにとっても、ヒトの自由移動に消極的にならざるを得ない状況が想定されます。 こうしてみたとき、体制の保証は、北朝鮮と海外との間の「鉄のカーテン」を残すことを意味するのです。