見上愛、『光る君へ』で最も“変貌”した人物に “強さ”を身につける彰子から目が離せない
NHK大河ドラマ『光る君へ』で見上愛演じる中宮彰子の変化が止まらない。藤原道長(柄本佑)と源倫子(黒木華)の長女として大切に育てられ、一条天皇(塩野瑛久)のもとに入内したのは、彰子がわずか12歳のときだった。道長が「引っ込み思案で、口数も少なく、何よりまだ子どもだ」と心配するほど、おとなしく、何か聞かれても「仰せのままに」としか答えない愛想のなさで、当然会話も続かない。 【写真】初登場時の幼さが残る彰子(見上愛) 母の倫子が明るく華やかな雰囲気だけでも装えないかと赤染衛門(凰稀かなめ)や女房たちの力を借りるも、それが余計なプレッシャーとなってしまったのか。ますます心を閉ざし、自分の気持ちや考えをどう表現していいのか分からず、まひろ(吉高由里子)と出会うまでは無表情のまま、完璧に整えられた人形のような少女だった。 そもそも、出家した定子(高畑充希)に心がとらわれている一条天皇のもとに彰子を入内させるようにと道長に進言したのは安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)だ。「彰子様は朝廷のこの先を背負って立つお方」「恐れながら、入内は彰子様が背負われた宿命でございます」とまで言っていたが、天変地異を収めるに彰子は入内するよう決められた。 そして、彰子入内の話を持ち出された一条天皇は困惑する。譲位して定子と静かに暮らしたいとさえ口にしていたが、権勢を振るう道長からの申し出に逆らうのは簡単なことではない。愛する定子を皇后にして、彰子を中宮とする一帝二后を受け入れるしかなかった。 知的な定子に夢中な一条天皇は、道長とその妻・倫子から彰子のことを激押しするよう根回しされても彰子自身まだまだ幼く、会話も全く弾まない。そして、定子が亡くなり、彰子は定子の生んだ敦康親王と藤壷で暮らすようになった。一条天皇は息子の敦康に会うために藤壷を訪れるが、彰子を気にかかる様子はなく、彰子も一条天皇に話しかけない。2人の関係は深まる気配すらなかった。 結局、彰子が変わるきっかけとなったのは、道長がまひろの物語に期待して、まひろを宮中に呼び寄せたからだ。書物が好きな一条天皇のために『枕草子』を超える面白い物語を用意するというアイデア以外、一条天皇の心に訴える妙案は見つかりそうもなかった。安倍晴明に相談すると「今、あなた様のお心の中に浮かんでいる人に会いにお行きなさいませ。それこそが、あなた様を照らす光でございます」と言われ、道長はまひろの家を訪ねた。道長から依頼を受けたことで『源氏物語』は生まれた。 彰子とまひろが2人だけで初めて会話したとき、彰子は意思表示して、好きな色も好きな季節も自然に言葉にしていた。「私は冬が好き」「空の色も好き」と言うが、女房の間で彰子が好きなのは薄紅色ということになっている。「私が好きなのは青。空のような」と、はっきり話す。この人には自分のことを知ってもらいたいという相手を見つけたような、そんな喜びのようなものも感じられた。 一条天皇が魅了される物語の作者であるまひろの存在そのものに興味もあったのだろう。まひろが物語の続きを一条天皇に献上するため、再び藤壺に上がった際、彰子は「帝がお読みになるもの、私も読みたい」と強く希望した。 そして、第35回「中宮の涙」ではタイトルにある通り、これまでずっと心の中にしまいこんでいた「一条天皇が好き」という気持ちを解放し、彰子は涙ながらの告白をする。この告白も、彰子とまひろが2人だけで会話しているところに敦康親王に会いに一条天皇がやってきたからできたのだった。 まひろは道長にとって光であるように、彰子にとっても抑圧から心を解き放ってくれる希望のような、力強い存在のようだ。まひろから自分の思いを表現する方法、漢籍や物語の知識を学び、彰子の成長は止まらない。自信を持つことで、ますます一条天皇からも愛され、自分自身と向き合える大人の女性へと変化してきた。政治に利用されるだけではない、本当の強さを身につけつつある彰子。本来の芯の強さを見せつけ、父・道長に反論したり、強く意見することもあるようで、変わっていく彰子から目が離せない。
池沢奈々見