井上尚弥vs.中谷潤人戦に注目

第6ラウンド、中谷は打ち下ろしの左でダメージを与えるとラッシュをかけ、2度、チットパッタナをキャンバスに沈めてKO勝ちを飾った。 「チャンスと見て仕留める、あのコンビネーションは見事だ。やはり、顎へのアッパーがヒットしたね。速かった。チャレンジャーも戦う気持ちはあっただろうが、体が言うことを聞かなかった。最初のダウンから起き上がった時は、拍手を贈りたくなった。78戦目にして初のダウンだろう？ 鍛えに鍛えたからこそのレコードだ。まぁ、ジュントとは器が違ったがな。 最後のラッシュも落ち着いていた。右フックを効かせてから左ストレートと、狙い通りだったね。ジュントは実にスマートな選手だ。序盤にジャブを当てながら、じっくりと相手の癖、パターン、力量を計り、次に距離を詰めてアッパーでダメージを与える。そしてフィニッシュに結びつける。 正しく、アーティストだよ。本物だ。他のバンタム級世界チャンプのことはよく知らない。でも、ジュントほどのクオリティーである筈がない。ジュントは、本当に稀有な存在だよ」 ウィザスプーンもまた、井上尚弥vs.中谷潤人戦に注目している。 「ナオヤ・イノウエもとてつもない選手だよな。パワーがあるし、自信が漲っている。どのパンチでも倒せる。あの爆発力は今日のボクシング界で、唯一無二だろう。全盛期のマイク・タイソンみたいだ。危険なパンチを1発もらったら、それ以降は喰わないインテリジェンスもある。 ジュントとは1クラスしか違わない。連戦連勝中で複数の階級を制している両者が戦えば、日本の歴史に残るメガ・ファイトとなるさ。今がピークのイノウエに対し、ジュントは日々急速な成長を見せている。プロモーターにとっては魅力的過ぎるカードだ。トウキョー・ドームがフルハウスになるさ。ハイレベルな、いい試合になることは間違いない。2人とも、ファンタスティックなチャンピオンだからな」 ――どんな予想を立てる？　と、私は訊ねた。 「試合開始のゴングからイノウエが仕掛けるだろう。ジャブの差し合いが続く。ジュントは迎え撃ちながら、自分の距離でカウンターを狙う……。5ラウンドくらいから接近戦になって、ボディを狙い合う。そんな展開かなぁ。今回のジュントの試合を見るまで、若干、イノウエが有利かなと思っていた。 だが、ジュントの成長は加速している。誰がトレーナーに付いて、どんな作戦を立て、いかなるトレーニングをするか、コンディションを作るかが勝負を決める。俺はコーチの重要性を理解している。現役時代は、“スリム”ジム・ロビンソンという名伯楽に支えてもらった。いい指導者ってのは、選手の伸ばし方、そして勝たせ方を知っているんだ。 まぁ互角…、敢えて述べるなら、現時点では51-49でイノウエ有利としておこう。それはイノウエが、世界タイトルマッチを23戦こなしているのに対し、ジュントは8戦というキャリアの差が理由だ。でも、本当に分からないぜ。ディフェンス力が明暗を分けるね」 ウィザスプーンは、声のボリュームを上げた。 「メガ・ファイトってことは、莫大なカネを生む。ファンに夢を与えるのだから、選手には自分が納得のいく条件で戦ってほしい。俺みたいにいいように利用され、まともなファイトマネーを手に出来ないなんてことのないよう、きちんとした契約書にサインしてからリングに上がってほしい」 「The Sky is the limit(可能性は無限にある)！」。 かつて、私が中谷について記した原稿の締め言葉を、このところWBCバンタム級チャンピオンは好んで使う。それを聞いたウィザスプーンは、弾んだ声を出した。 「今のジュントにピッタリの言葉だな。どこまで上るか、楽しみだ」