「道長や皇子を呪う」恐ろしすぎる事件の“黒幕” 内裏で呪いの札が見つかる、犯人は一体誰か
道長は、高階成忠の息子・高階明順(伊周の叔父)が指図したと疑ったようです。高階明順を召した道長は次のように諭したといいます。 「このような悪意は決して持ってはならん。若宮(後の後一条天皇)は幼いが、因縁によってこの世にお生まれになった。普通の子でさえ、そのようなことでは死なないのに、ましてや、並々ならない果報により、皇子として誕生された若宮。その若宮が人の呪詛などに負けるはずがあるだろうか。お前たちが、このようなこと(呪詛)を行うならば、天罰がたちどころに降るであろう。よって、私がその罪を問うことはあるまい」と。
権力者の余裕というものを感じることができますが、高階明順は恐れ入って、何も言葉を発することはできなかったようです。 ■関与した人達は処罰、伊周もこの世を去る そして、その数日後に突然、高階明順はこの世を去ったと同書には記されています。高階明順がこの事件に関与していたかはわかりませんが、高階光子と源方理は官位を剥奪され、円能は禁獄に処されます。 直接関与していなかった伊周ですが、朝廷への参上停止となります(3カ月後には許されました)。伊周は翌年(1010年)1月、37歳の生涯を閉じます。「人を呪わば穴二つ」(人を陥れようとすると、自分も同じ仕打ちに遭う)とはよく言ったものです。
(主要参考・引用文献一覧) ・清水好子『紫式部』(岩波書店、1973) ・今井源衛『紫式部』(吉川弘文館、1985) ・深澤瞳「『栄花物語』の高階成忠の「祈り」考--道兼・道長への呪詛」(『大妻国文』37号、 大妻女子大学国文学会、2006年) ・朧谷寿『藤原道長』(ミネルヴァ書房、2007) ・繁田信一『殴り合う貴族たち』(KADOKAWA、2008) ・紫式部著、山本淳子翻訳『紫式部日記』(角川学芸出版、2010)
・倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社、2023)
濱田 浩一郎 :歴史学者、作家、評論家