トランプは「いつでも電話してこい」と私の肩をたたいた…、元駐アメリカ全権大使が見た「トランプの素顔」と「大統領選の行方」
様変わりするアメリカの「二大政党」
――最近では、アメリカの二大政党の性格も様変わりしているという印象です。杉山さんには、いまの民主党と共和党はどのように見えているのですか。 日本にも、第一次大戦後に、政友会と民政会の二大政党の時代が7年間くらいありましたよね。でも、日本ではなかなか二大政党が根づかない。そこはポリティカルカルチャーが全くちがうからなんだと思います。アメリカは、共和党のイメージはエレファント(像)で赤、民主党がドンキー(ロバ)で青というようにどっちかを選ぶ。対立軸を明確にするのがアメリカです。 共和党が保守で民主党がリベラルですが、いまでも党大会に行けば、雰囲気が象徴的にそのことを表しています。 共和党大会の雰囲気はクラッシー。男性はスーツでパリッと決めて、女性はドレス。食事は、高級なレストランを好み、あるいはフライドチキンやペプシコーラを飲む。民主党はTシャツとジーパンで党大会にやってきて、ピザを食べるという感じです。 ただし、最近ではその中身がどんどん変化しています。 かつては共和党の支持者は高学歴で富裕層のイメージだったが、最近は民主党のほうが医者とか地主とか大学教授の支持者が増えています。教育水準でも所得水準でも民主党のほうが高いイメージとなってきた。労働組合は伝統的に民主党支持だけど、トランプが大統領になってからは必ずしもそうではなくなっています。 よく、「アメリカの分断はトランプが作った」と言われていますが、私はそうは思いませんね。政治文化の体系は10年単位で変化してきましたが、ここ10年でアメリカで分断が生まれ、その結果としてトランプが生まれた。つまり、アメリカの分断がトランプを生んだのです。 トランプは、従来の共和党とはちがう非伝統的な強い個性を持っていることでアメリカの分断を象徴しているわけですが、このような時代では、たとえトランプがいなかったとしても、また他の分断を象徴するリーダーが出たでしょう。 トランプは、大統領になる前には一度も公職に就いたことがありませんでした。不動産業の富裕層、テレビの司会者として有名ではあったけど、ホワイトハウスとは無縁の非主流派。 逆にバイデンは、37年間、上院議員をやって外交委員長もやり、副大統領を8年やっていま大統領です。つまり、日本的にいえば永田町と霞が関のサークルにずっと住んでいたエスタブリッシュメントがバイデンでした。 アメリカのメディアの人たちがよく言うことは、「バイデンをニュースにしてもあまり視聴率は取れないが、トランプを出すとみんなが観てくれる」ということ。バイデンのモノマネはウケないけれど、トランプのモノマネをする人はスターになる。ここにアメリカのいまが象徴されていると思いますね。 では、ハリスはどうでしょうか。 女性で非白人という話題性がある。でも、ヒラリー・クリントンもトランプに阻まれて大統領になれなかったということもあった。それはガラスの天井(見えないジェンダーギャップ)という見方もできるかもしれないが、元検察官でエスタブリッメントのハリスより、トランプの方が多くの人にとって身近な存在だという見方もできるのではないでしょうか。 どちらが勝つかは分かりませんが、今回の大統領選挙からは、アメリカの変化の行方を感じ取るべきなんだと思いますね。 後編記事『元駐アメリカ全権大使がすべてを語った!「日米関係の現実」と「陰謀論の真実」――日本人が知っておきたい「日本外交の常識」』で、さらに『日本外交の常識』に込めた杉山氏の真意について迫っていきます。
現代ビジネス編集部