「自然は動く絵画、窓側席で楽しむ“車窓美術館” 51歳になって己の好みを新発見」ジェーン・スー
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 先日、和歌山県海南市で行われた男女共同参画講演会で講演をしてきました。 新幹線で新大阪まで約2時間半。特急くろしおに乗って1時間15分。乗り継ぎの時間も含めると、合計4時間の長旅です。日帰りなのが残念ですが、ここは気合でGOだ。 講演会で各地へ呼ばれるようになり、車窓からの景色を見るのがなによりの楽しみになりました。都内では地下鉄ばかり利用するので、景色を楽しむことはできませんから。 特急や新幹線に乗ると、すぐさまパソコンを出して仕事をしたり、本を読んだりする人がいます。私はと言えば、イヤフォンをつけて音楽を流しながら、ボーッと外を眺める。席を予約するときは、必ず窓側を選びます。 東海道新幹線に乗ったら、熱海を過ぎたあたりからソワソワ。富士山が目前に現れるのを、いまかいまかと心待ちにします。天気が良ければ雄大な姿を拝むことができますし、曇りや雨の場合は、いったいどこに隠れたのかと不思議になるほど、富士山はその姿を見せてくれません。私は勝手に「今日の富士山チャレンジ」と称して、その時間を楽しんでいます。
東北新幹線に乗ると、関東ではなかなか見られない大きな大きな空と、美しい山々の姿が見られます。車窓はまるで額縁のようで、自然は動く絵画とでもいいましょうか。まるで美術館にいるような気持ちになってきます。明石へ足を運んだときは、窓から眺めた水平線の美しさに思わずため息が出ました。水面がキラキラと反射して本当に美しかった。一方で、工場や住宅と自然が混在する地域も見ごたえアリ。規則性のない自然物と、規則性に縁どられた人工物が次から次へと交差するのがリズミカルで、音楽を聴いているよう。 車窓美術館、こちらが歩かなくても勝手に額縁の中が動いてくれるので便利です。51歳にもなって己の好みを新たに発見するとは思っていませんでしたが、私は横方向に景色が流れていくのを見るのが好きなのでしょう。我ながら変な好みです。子どもの頃はそんな趣味はなかったのに。 新大阪から乗る特急くろしおを調べてみると、車窓から美しい海岸線が見られるとありました。とても興奮して窓側の席をとったけれど、残念ながら海岸線が見られるのは私が下車した海南駅から先だったようです。次は必ず、海南より先まで行かなくちゃ。 じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。 ※AERA 2024年7月15日号
ジェーン・スー