【山口智子さんインタビュー/後編】還暦目前にして「何ひとつ衰えを感じない」という山口智子さんの元気の素は?
なるほど、基礎体力もハンパない。そもそも元気じゃないと旅には行けない。 「私はフラメンコが大好き。踊っている限りは気力体力、バッチリです。踊るほど、疲労は回復しちゃいます」 それはいったい、どういうことかというと。 「30歳の頃フラメンコを始めて、でもだんだん振り付け重視の日本で習うフラメンコに疑問が芽生えて…まるでラジオ体操みたいで苦しくて、一時期遠ざかっていました。 でも10年ほど前に旅先のスペインで偶然、暮らしに根ざした庶民のフラメンコに出会って、また恋に落ちて修行を再開しました。歌やギターの音をしっかり体に吸収して、今ある命に感謝しながら踊るフラメンコは、生きる喜びです。明日も頑張ろうというパワーが湧いてくる。 コロナ禍では、オンラインでスペインと繋がりながら学んでいましたが、今は素晴らしい踊り手の皆さんがたくさん来日して、クラスを開いてくれるようになったので嬉しいです。 みんな日本のラーメンが大好きで、ラーメンを食べることを楽しみに来日してくれる(笑)。スペインにも年1で修行に行きますが、食文化が素晴らしい」 フラメンコといえば、汗を散らしながら官能的に踊る、みたいなイメージが強いけど。 「私は体育会系やナルシスト系の踊りは苦手(笑)。 私が心惹かれるフラメンコは、商店街の普通のおじいちゃんおばあちゃんがサラッと踊る、人生の味わいが滲み出るフラメンコ。ちょっとした動きやユーモラスな仕草や表情で、周りをあっと言わせる奇跡の瞬間を生み出す。真似したくても真似できない、人生の歳月に磨かれた究極の技。どう生きてきたかが表れるのが、フラメンコの面白さ」 では再開したフラメンコ、以前とはどこがどう違うのかというと。 「心と脳をものすごく使います。脳を使わないと、ただの筋肉運動になっちゃう。多分マシンの運動よりも、脳を使うダンスの方がものすごくカロリーを消費するんじゃないかな? 心も体も活性化します。 歌やギターを聴いて、心が湧き立つ。その喜びが体中に満ちて、体と脳と心が生き生きと結びつき出して、幸福感に満たされる。おかげで最近は記憶力も増して、体力や知力が年々増加してる気がします」 アウトプットしたあとの心と体には、踊る喜びがエネルギーとしてチャージされていく。そうやってフラメンコによる循環が完成するのだろう。 「もうすぐ還暦ですが、人生で今が最高潮です。何ひとつ衰えを感じていません。雑念が削ぎ落とされて、無理なく、本来の自分に近づいている感じ。 自分自身の内なる声に耳を傾けて、自分の心と体が幸せになるための道がやっとわかってきた。 若い頃のほうが、ホルモンの力に操られていたような気がします。怒りが収まらなかったり、泣きたくてたまらなくなったり… 別の誰かに憑依されて操られていたような(笑)」