『人間の境界』アグニエシュカ・ホランド監督 世界は危険な方向に進んでいる【Director’s Interview Vol.402】
私は希望を捨てていません
Q:世界が抱える問題は複雑で簡単には解決しませんが、今の世界はロシアの大統領たった一人に振り回されている部分もあります。世界の多くの人は平和で健やかな暮らしを望んでいるはずなのに、なぜ人類は不幸な道へ進んでしまうのでしょうか? ホランド:やはり“現代”という時代もあると思います。いろんなことが起きていて、それに対する“なぜ?”という気持ちにポピュリストたちがつけ込んでくる。「こうすればすぐ不安は解決するよ」「こういうシンプルな解決案があるよ」と。しかし私たちが直面している問題は、決してシンプルに解決できるようなものではありません。複雑だからこそ潜在的な恐怖を感じてしまう。怖くて困難だと思えば思うほど、そこにポピュリストたちつけ込んでくる。 世界の皆さんには目覚め気づいて欲しいと思っているし、その希望を私は捨てていません。そのためにはどこに問題があるのかをきちんと把握する必要がある。問題は他人だけにあるわけではない。それぞれが少しずつ異なる中で、どうやって調和を見出すかを考えることが重要なのです。 Q:日本の観客に向けてメッセージをお願いします。 ホランド:これから観ていただく皆さんには、是非心をオープンにして感じて欲しいです。作品の持つメッセージ、そして簡単ではない現実を受け入れてもらいつつも、そこに希望は失われていないことも感じて欲しい。この映画には、自分の生活を犠牲にしてまで他者を助けようとする人々が出てきます。そこから何かを感じてくれたら嬉しいです。 監督:アグニエシュカ・ホランド 1948 年、ポーランドのワルシャワ生まれ。1972 年にプラハ芸術アカデミーを卒業。クシシュトフ・ザヌッシの助監督を務め、アンジェイ・ワイダに師事した。これまで 1985 年に『Angry Harvest(英題)』、1990 年に『ヨーロッパ、ヨーロッパ~僕を愛したふたつの国~』、 2012 年に『ソハの地下水道』でアカデミー賞に3度ノミネートされている。これまでの主な監督作品に『オリヴィエ、オリヴィエ』(1992)、『秘密の花園』(1993)、『太陽と月に背いて』(1995)、『Julie Walking Home(原題)』(2001)、『ポコット動物たちの復讐』(2017)、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019)『Charlatan(原題)』 (2020)など。また、『Treme(原題)』 (2010-13)や『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(2013-18)といった人気 TV ドラマシリーズの監督も務めている。 取材・文: 香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
香田史生
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