古民家ホテル、案内役は村民 人口620人の村の風景が一変、外国人客も獲得【地域再生大賞・受賞団体の今】
東京の水源となっている多摩川の源流部、山梨県小菅村にある築150年を超える古民家を生かしたホテルが人気を集めている。交通が不便な山奥にありながら、標準的な宿泊料金は2人1室で1人当たり3万8500円と安くはない。だが、村民がコンシェルジュ(ガイド役)となり、山村の暮らしや自然を体感してもらうスタイルが受け入れられてリピーターや外国人旅行者も目立つ。移住希望者も出ており、人口約620人の村の風景を一変させた。(共同通信=藤田康文) 【写真】「これが日本の地方暮らしだ!」 海辺の一軒家宿、訪日外国人客に評判
▽はりや柱を生かす JR中央線と富士山麓電気鉄道が乗り入れる大月駅(山梨県大月市)から自動車で約40分。険しい山々に囲まれた谷間に「NIPPONIA(ニッポニア)小菅 源流の村 大家(おおや)」がある。 急勾配の大きな屋根を持つ合掌造り。内部は養蚕農家の名残である高い天井、いろりの煙でいぶされて黒光りするはりや柱がそのまま生かされ、モダンな家具と調和している。 ▽四季折々の山野草 宿泊客は夕食の前に、ガイド役の村民に案内されて近くの温泉までのあぜ道を散策する。斜面の小さな畑にウドやミョウガ、ソバといった四季折々の山野草が生えており、ヤマメの養魚場や水源の森も近い。 地元の人とのおしゃべりに花が咲き、家に招き入れられることもある。軒下にはまきが積まれ、昔ながらの自給自足の生活が残る。希望する人は地元農家での収穫体験もできる。 ガイド役の細川春雄さん(68)は「イノシシがタケノコを掘り返し、シカやサルも現れる」と笑う。建物は「大家」の愛称で親しまれていた名士の邸宅だったことや、ホテルに生まれ変わるまでの経緯などを宿泊客に説明する。
▽明かりが消えた 大家には小学校の先生を長く務め、村民から慕われた夫妻が住んでいた。 テレビが家庭に普及していなかった昭和30年代には、近所の子どもたちがテレビの前に集まって力道山のプロレス中継を観戦する様子が見られた。村にはピークの1955年に2200人余りが暮らしていた。 大家に住んでいた夫が亡くなり、高齢になった妻も住まなくなり、約3年間明かりが消えた。細川さんは大家の明かりが消えた当時を「子どもの頃に庭や玄関でよく遊んだ思い出の家。さみしかったね」と振り返る。 その頃、歴史的な建物を地域の活性化に生かすために古民家ホテルへ改装する話が持ち上がった。村では高齢化で旅館や民宿の廃業が続き、観光客を呼ぼうにも宿泊施設が足りないことが課題となっていた。 ▽黒字経営が続く 2018年にホテルの運営会社「EDGE(エッジ)」が立ち上がった。東京のコンサルティング会社、小菅村が出資する企業、古民家を再生した物件を「NIPPONIA」のブランドで展開する企業「NOTE」(兵庫県)の3社が共同出資した。「大家」は翌19年の夏にオープンした。