「肉まんには酢じょうゆ」絶対に譲れない九州の食文化の謎に迫る いまや大手コンビニも「提供推奨」
毎年、冬になると気になっていた。福岡のコンビニで肉まんや豚まんを買うと付いてくる「酢じょうゆ」が。愛知県出身の記者の地元には、そんな食文化はない(おでんを買うとみそは付いてきたけども)。大学進学以降過ごした東京にもなかった。聞けば九州で特徴的な食べ方だとか。一体、なぜ…。中華まんの“相棒”の謎を追った。 (森亮輔) 【画像】「博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?」の一幕。東京に暮らす福岡出身の高校生が、酢じょうゆの重要性を語る
九州だけでなく中四国も
まず、酢じょうゆを付けるエリアはどこなのか。大手コンビニに聞いてみた。 ファミリーマートは「加盟店の要望が多く、関西、岡山、九州で10年以上前から提供している」。ローソンは「九州地区では酢じょうゆを用意している店もある」という。 セブン-イレブンを展開するセブン&アイ・ホールディングスは「九州と中四国地方で酢じょうゆの提供を推奨している」と説明する。「地域の食文化に合わせた対応」という。 同社の広報担当者によると、2008年5月に九州全域と山口、広島両県で提供を開始。13年には香川と愛媛と高知、14年に徳島で導入。15年には岡山、鳥取、島根の各県に広げたといい、急拡大の感もある。 九州でいつ始まったのかは分からないが、「長崎ぶたまん桃太呂」(長崎市)では、1960年の創業当初から購入者に無料で酢じょうゆを提供してきたという。総務部長の坂本洋司さん(36)は幼少期、祖父である創業者が「酢じょうゆを付けたらおいしいぞ」と言っていた姿を覚えている。「(祖父が)自ら、しょうゆと酢を混ぜて小袋に入れて、お客さまに渡していたそうです」
「黒酢代用説」の声多く
では、なぜ酢じょうゆスタイルが九州で浸透したのか。料理研究家、食文化研究者、老舗肉まん店、中華まんメーカー、どこに聞いても「分からない」。 「大衆の食文化の中で生まれ、資料や文献はないのでは」という声もある中、推測として多かったのが「黒酢の代用」説だ。 「中華まん博覧会」を企画する「ご当地グルメ研究会」(東京)の松本学代表は「中国では点心を黒酢で食べるのが一般的。黒酢が手に入りにくかった時代に、酢じょうゆに置き換えたのではないか」とみる。 83年創業の豚まん店「太平閣」(福岡県大野城市)の崔知美店長(52)も「中国で黒酢を付けて食べる流れだと聞いた」。ただ同店は「あんにしっかり味が付いているので、そのまま食べてもらっている」。それもおいしい。 黒酢が源流だとしても、地域性の謎は残る。福岡の食文化に詳しい日本経済大(同県太宰府市)の竹川克幸教授は「福岡をはじめ九州では元々、ポン酢や酢じょうゆをよく使う食文化がある。九州人の『好み』と合っていたのでは」と推し量る。