患者のメリットはゼロ!…マイナ保険証を「いますぐ考え直したほうがいい」理由と、いまこそ思い返すべき「住基カード大失敗」の悪夢
任意のマイナカードがいつのまにか強制に
そもそも、マイナカードは任意のシステムとして始まったものだ。しかし、マイナ保険証は、事実上、利用を強制するシステムになっている。マイナ保険証導入の目的は、国民の利便性の向上ではなく、マイナカードの普及だと考えざるをえない。 マイナカードの保有者が増えたのは、申請すればポイントを得られたからだ。これによって普及率が大幅に増加した。マイナカード取得した人の多くは、それを利用しようと考えていたのではなくて、ポイントがもらえるから応募したのだ。 政府としては、住基カードで失敗した苦い経験がある。巨額の資金を投入しながら、使い物にならないシステムを構築し、結局は廃棄した。これは、失政以外の何物でもない。 だから、同じことをマイナカードでは繰り返せないというのが、至上目的になってしまった。マイナカードの普及だけが目的となってしまい、それが国民生活をどのように便利にするかという視点がまったく欠けてしまった。そして、その利用に伴うリスクをどう根絶できるかという視点がなおざりになってしまったのだ。
マイナカードの本来のサービスを拡充してほしい
では、マイナカードは、何のために必要なのか? マイナカードは、原理的に言えば、本人確認のための極めて強力な手段である。したがって原理的にいえば、さまざまな面で手続きが簡単になるはずだ。しかし、現状では、そうした事例はほとんどない。 印鑑証明書などを、近くのコンビニエンスストアで取得することができるのは便利だが、これは、従来の印鑑システムの維持にために必要なことだ。その意味で自己矛盾に陥っている。 マイナカードの本来の目的は、印鑑がなくても本人証明ができるシステムの構築だ。だから、そうしたサービスを拡充してほしい。 マイナカードを持ち歩かないで、できれば自宅で利用できるようにする。あるいは、コンビニエンスストアや市役所の支所などで利用可能な端末を多数設置する。そのシステムで、戸籍謄本などの公的書類を紙にするのでなく、デジタル形式で直接に相手に送れるようにする。 これによって日常生活は著しく便利になるだろう。利便性に大きく寄与することを示すのでなければ、マイナカードは、結局のところで、住基ネットと同じ運命をたどるしかない。
野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授)