銀座で高級なカニを低価格で提供 元中国人留学生、11年で夢実現
コロナ禍に1年間、「無料」で空き店舗を借りられた
どのように盛り返したのか。 孫氏:ある大家さんから、「コロナ禍の最中に自分が所有するビルのテナントが全て撤退したため、家賃は無料でいいから、1年間借りてくれないか」という好条件の話がきて快諾した。居抜きで使えたため、改装費は看板を変える程度で済んだ。店舗形態は、人との接触を減らすため、セルフ式ハイボールと焼き鳥を提供するリーズナブルな大衆酒場にした。 内装にお金をかけた高級中華料理店とは正反対の業態も手掛けた。 孫氏:この経験を経て、価格を下げてでも早く貸したい大家さんと、安く借りたい自分たちの需要とが合致し、条件よく居抜きで使える物件を中心に、店舗拡大を図った。 22年9月、高田馬場に「孫二娘 潮汕牛肉(ソンニニョウ キャオジャオニウロウ)」オープンを皮切りに、同年12月、上野に日本初上陸といわれる広東省潮汕の牛肉火鍋の店「孫二娘 潮汕牛肉火鍋(ソンニニョウ キャオジャオニウロウヒナべ)」を出店。さらに22年3月、新橋に全席個室で卓上レモンサワーとハイボールが飲み放題、焼き鳥食べ放題の店「乾杯500酒場」、同年9月に神田店、23年1月に船橋店をオープンした。24年1月には、蒲田に「ホルモン専門店 乾杯500酒場」を出店した。 23年8月にオープンした「北京ダック専門店 銀座芳亭」は食べ放題の業態で成功した。複数の飲食事業を経て、「厳選職人・厳選食材・創意工夫・おもてなし接客」がテーマの創作レストラングループに変貌していった。 銀座八芳は、どのような経緯を経てオープンしたのか。 孫氏:おいしい料理を食べ放題で提供する店の人気が高かったので、大きな物件が出たら、ビュッフェ業態をやりたいと思っていた。250坪という大きな物件の話が来たとき、「今まで培った食べ放題業態のノウハウを駆使すれば、必ず成功する」と確信した。 契約上、いったん「スケルトン(建物の骨組みだけになっている物件)」に戻さなくてはならない物件だったが、内装や壁を一から造ることはさほど気にならなかった。 高級海鮮食材は仕入れ値が高いと思うが、どのように切り盛りしているのか。 孫氏:高級食材を大量に仕入れているため、原価率は50%以上かかっている。しかしビュッフェ業態のため、席数が400あっても、人件費を通常の約半分に抑えられる。食材にお金をかけている分、他の経費を抑えて、お客様に満足してもらうことを優先した。 ものすごい量の食材だ。いくらかかるのか。 孫氏:企業秘密なので金額は答えられないが、量でお話しすると、一番仕入れ量が多い食材のタラバガニは、1日150キログラムも仕入れている。これだけ大量に仕入れると、仕入れ価格は通常よりかなり下げられる。また、その業者の休業期間や時化(しけ)が長いときは、安定した仕入れができない可能性もあるため、最低でも2つの業者と取引するようにしている。 それは良い対策だ。銀座八芳は連日、満席が続いている。今後の展望を教えてほしい。 孫氏:今はオープン景気で好調だが、盛況に満足することなく、集客を安定させたい。また、メニューが飽きられないよう、ビュッフェで人気のない食材は減らしたり、季節を意識した新しいメニューを作ったりなど、試行錯誤を重ねたい。 ●取材を終えて 飲食店に入って、久しぶりに「おー」と声を上げてしまった。それほど、銀座八芳のシーフードブースは破壊力があり、インパクトがあった。ワクワクさせるのも飲食店にとって重要な要素だ。 平日は100分制で食べ放題・飲み放題が1万1300円は、十分にリーズナブルと言える。筆者は「タラバガニ&アワビ」+「中華三昧」狙いで出かけてみようと思う。無理を承知で言えば、食べ放題は無理でも、秋は1人限定1品提供でいいから“焼き松茸”と“松茸の茶わん蒸し”に期待したい。
SHiGE