篠原一男の名言「住宅は芸術である。」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。高度経済成長期、日本の建築業界を取り巻く環境が急速に変化する中で、住宅建築のあるべき姿を追い求めた建築家・篠原一男の箴言とは。 【フォトギャラリーを見る】 住宅は芸術である。 戦後から高度経済成長期に突入し、急速に産業化・都市化が進む日本で注目を集めたのが建築家の篠原一男だ。当時は大規模なオフィスビルやホテル、工場の建築ラッシュが続く時代。そうした建築業界の主流と距離を置いて、住宅建築は“流れに浮かんだ泡沫のよう”なものだったと篠原は言う。 住宅を中心に作品を手掛けてきた彼は、建築家が住宅を手がける意味を思慮しながら、「住宅は芸術である」という論文を発表する。 「住宅という空間は今日の人間のさまざまな感情の動きとさらに深くかかわることによってのみ、その存在が保証される。さらにあえていうならば、人間の生活のかかわりかたにおいて、他のどの芸術よりも全的なものであることを注目すべきだろう。生活のすべてをかけた強烈な芸術だとさえ私は思うのである」。 篠原が言う「芸術」とはアーティスティックな造形や奇抜なデザインのことではない。住宅を作るということは、そこに住む人の人生の営みに直接関わることであり、絵画や彫刻、文学などと同様に文化を育むことである。住宅建築は産業ではなく、文化。そして、その一端を担うことが、建築家が住宅を作ることの意味だと考えたのだ。 「住宅は芸術である」宣言から50年以上が経った今。人間の生活に深くかかわる住宅はどうあるべきか。改めて考えてみたい。
しのはら・かずお
1925年静岡生まれ。建築家。東北大学数学科を経て、東京工業大学建築学科へ進学。清家清に師事し、日本の伝統建築の空間性を近代的表現に転化した住宅の設計を数多く手がける。代表作に《白の家》、《から傘の家》など。2006年逝去。
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