伊「ブリオーニ」と小さな村の挑戦 テーラリングで文化をつなぎ、未来を仕立てる
文化をつなぐ手厚い支援
同校はコロナ禍の休校を経て、2024年9月に創業者の名を冠した「スクォーラ・ディ・アルタ・サルトリア・ナザレノ・フォンティコリ」として再び開校すると、衣服制作にのみ焦点を当てた年間1300時間、週5日の授業内容に変更した。初年度は、2年コースの入学試験を通過した女性10人、男性6人の生徒を迎えている。中にはフランスからの留学生や、「ブリオーニ」勤務の両親の背中を見て自身もテーラーの道を志したという23歳もいた。
授業は同ブランドのマスターテーラーや技術講師の指導のもと、縫製からパターンメーキング、裁断までの手仕事の技術や、機械を用いた制作工程も学ぶ。「ブリオーニ」のメソッドや高品質の生地を使いながら学べるものの、卒業後の進路選択は自由だ。生徒は就職先で高待遇を得るために、テーラリングの総合的な技術を身に付ける。
学生への支援も手厚い。初年度の生徒16人には入学金3000ユーロの85%を負担する奨学金を授与し、1 年目の中間試験および2 年目の最終試験に合格した場合は、入学金全額を奨学金で支給して、費用を返還するという。企業としては学校の運営費はもちろん必要ではあるものの、入学金や授業料での利益以上に、文化の継承や雇用創出に長期的な価値を見いだしているのだろう。実際、ペンネに構える「ブリオーニ」のファクトリーには前身学校の卒業生も多く、数百人のプロフェッショナルが同ブランドの美しいテーラリングを支えている。現在「ブリオーニ」のチーフマスターテーラーとしてテーラリング部門を率いるアンジェロ・ペトルッチ(Angelo Petrucci)も、同校の一期生である。人から人へ、手から手へと受け継がれた技術と文化が、結果的にブランドの強固な基盤となる――巨大コングロマリッドによる生産拠点の買収合戦とは一線を画す、時間をかけたラグジュアリーの継承だ。
生活を豊かにするテーラリング