北新地放火殺人3年、亡くなった院長の妹は出所者の孤立防ぐ傾聴活動…「生き直し手助けしたい」
26人が犠牲になった大阪・北新地クリニック放火殺人事件で、死亡した容疑者の男は別の事件で服役後、孤立や困窮から自暴自棄になったとされる。17日で発生から3年。亡くなった西沢弘太郎院長(当時49歳)の妹、伸子さん(47)は「再犯を防ぐため、自分にできることをしたい」との思いを胸に、出所者の話に耳を傾けている。(北島美穂)
伸子さんは昨年9月中旬、36人が犠牲になった京都アニメーション放火殺人事件(2019年7月)の公判を京都地裁で傍聴した。元受刑者が孤立を深め、ガソリンで放火したとされる点で北新地の事件と共通性があり、伸子さんも関心を持っていた。
法廷では、被害者参加制度を使った遺族から「被害者にも家族がいることを考えたことはあるか」と聞かれ、青葉真司被告(46)は「そこまでは考えていなかった」と答えた。伸子さんは兄の子どもが頭に浮かび、涙がこぼれた。
兄は夜間も働く人の悩みに親身に向き合い、復職を支援する「リワークプログラム」に力を入れていた。伸子さんは事件後、兄の熱意を知り、心のケアについて学びながら、元患者らが集まるオンライン交流会に参加。元患者らの悩みに耳を傾けてきた。
「どうしたら事件を防げたのだろう」。傍聴後もその答えを探すうち、「再犯を防げなかったからではないか」と思った。そして「容疑者にも話を聞いてくれる人がいれば、結果は違ったかもしれない。自分にできるのは出所者に話を聞き、内面を見つめ直してもらう機会を作ることだ」と考えるようになった。
今年2月から、出所者らの就労支援に取り組む「ワンネス財団奈良本部」(奈良県大和高田市)に足を運び、出所者らの話に約1時間、耳を傾ける活動を始めた。これまでに向き合ったのは約40人。薬物やギャンブルの依存に悩む人も多い。不安な気持ちを否定せずに受け止め、「あなたは大丈夫」「うまくいっている自分をイメージして」と励ますと、「前向きになれた」「支えになった」という言葉が返ってきた。