フォークとボサノヴァを繋ぐ新世代、リアナ・フローレスが語る柔らかな歌声の背景
「移ろい」をテーマにしたデビューアルバム
─デビューアルバム『Flower of the Soul』の制作はどのように始まったのでしょう? リアナ:2021年の夏から少しずつ要素をまとめて、音楽をたくさん聴きながら書いたり書き直したりしてきて。夏を何度か越えて取り組んできたアルバムだね。とても長いプロセスだった。 ─それは自分の思いをうまく表現するのに時間がかかったから? リアナ:そう。音楽的にも歌詞的にも自分の技術を磨きたかったし、これまで受けてきたあらゆる影響を統合したかったからだと思う。 ─今回のアルバムのテーマやコンセプトを教えてください。 リアナ:最初からあったテーマは変化(transformation)で、その過程で変わるものと変わらないものについて。私の存在は自然の変化と深く結びついている。書いていくうちに結果的にその境界は明確ではなくなっていったけど、アルバムは四季に分けられていたんだ。それでも、自分たちの人生や自然界の季節、そして自然で過ごす時間が一種の自己超越の手段であるという一貫したテーマは残っているよ。 ─そういったテーマを取り上げようと考えたのはなぜでしょう? リアナ:ちょうど制作中に大学を卒業して、これから先のことを考えていた時だった。小さな町にある大学に通い、育ったのも小さな町だったから、都会に出て暮らすのは初めてだった。それで最終的に、音楽をフルタイムでやる覚悟を決めたというか……そんなふうにいろんな変化が私に起きていたの。そういう気持ちが曲にも反映されたんだと思う。 ─プロデューサーのノア・ジョージソンとは、スタジオではどんなやり取りを重ねましたか? リアナ:スタジオで彼と録音することができたのは最高の体験だった。私は彼の作品が大好きで、特にジョアンナ・ニューサムやナタリア・ラフォルカデとの仕事がお気に入りなの。各曲についてかなりの議論と調整があった。曲によっては一度録ったものをあえてテープに落とし込んで、70年代っぽい雰囲気にしたものもある。どういった影響を取り込むかについても、1曲ごとに話し合いをしながら進めた。彼は本当に素晴らしいプロデューサーだし、一緒に仕事ができて嬉しかった。 ─彼はアメリカ人ですが、イギリスのフォークやブラジルにも詳しいので、そういう意味でも相性が良かったんじゃないかと思います。それこそバート・ヤンシュのプロデュースも手がけていますよね。 リアナ:そうだね。お互いに同じような音楽的言語を話している感じだった。そうそう、彼と仕事をしているデヴェンドラ・バンハートの音楽も大好き。私たちは自然への愛、録音の不完全さへの愛という点で同じような視点を共有していたと思う。 ─歌詞を書くときに大切にしていることはなんですか? リアナ:それは曲によりけりだけど、いくつかの曲では、雰囲気を作り出すことが最も重要だった。そういう曲は、歌詞をより曖昧で詩的なものにすることができる。その一方、どうしても吐き出したい感情があった時に書かずにはいられないような曲もある。そういう曲は多くの人に共感してもらえるんだけど、振り返ったときに自分があまりに率直でさらけ出し過ぎていることを少し恥ずかしく思うときもある。そうなると、また自分の中の洞窟に戻って、イメージや詩に包まれた曲を書くことになる。これが私の二つの作詞のスタイルかな。 ─EP『The Water’s Fine!』の頃は声を大きく張り上げて歌う瞬間もありましたが、最新作では柔らかく、のびやかに歌っていますよね。この変化は意識したものなのでしょうか? リアナ:うん、かなり意図したものだった。私はさまざまな歌手から影響を受けている。さっきも話したヴァシュティ・バニヤンの歌い方にはかなり影響を受けた。アストラッド・ジルベルトもその一人。ケイト・ブッシュの『The Kick Inside』や、ペンタングルのジャッキー・マクシーからの影響もある。あと、ジョーン・バエズもそう。フォークの高音ボーカルスタイルが私の音楽に影響を与えているよ。 ─チン・ベルナルデス、ジャキス・モレレンバウムといったブラジルのミュージシャンが参加していますが、これはあなたのルーツとも関係するのでしょうか? リアナ:このコラボレーションは私のルーツというより、彼らの音楽に対する愛と感謝の気持ちから生まれたんだよね。チンとジャキスがアルバムに参加してくれたことは本当に驚きだし、私にとって夢のような出来事だった。彼らの作品が本当に大好きだから。 チンと一緒に作った「Butterflies」は、カエターノ・ヴェローゾとガル・コスタの『Domingo』への特別なオマージュ。あのアルバムがとにかく大好きなの。二人の声が一緒になったときの響き、クールなストリングスやブラスのアレンジ……まるで漂うみたいに、曲がさまよう感じも。それでいてアルバム全体に一貫した雰囲気がある。それでこの曲も、男女のデュエットの形でボサノヴァをベースにしていて、チンの音楽に深くインスパイアされている。チンのライブを何度か見に行って感激したことがあって、それで彼に興味があるかどうか連絡して実現した曲なんだ。 ジャキスに関しては、坂本龍一のアルバム『CASA』を聴いていて、ストリングスのアレンジが素晴らしいと思って彼のことを調べたんだ。 ─これからシンガーソングライターとしてどんな歌を歌っていきたいですか? リアナ:人々がカバーしたいと思うような歌を歌い続けたい。歌手の手を離れても独立した生命を持つような曲を作りたい。ジャズのスタンダードやフォークミュージックに共通しているのは、独自の生命を持っていることだと思う。時代を超えて愛されるクラシックなサウンドで、よく練られたジャズ、ポップ、フォークの曲。それが私の興味のあること。 --- リアナ・フローレス 『Flower of the Soul』 発売中 日本盤ボーナストラック収録
Shunichi MOCOMI