フォークとボサノヴァを繋ぐ新世代、リアナ・フローレスが語る柔らかな歌声の背景
フォークとの出会いと探求、日本の音楽への好奇心
─その一方で、ヴァシュティ・バニヤンやニック・ドレイクといった60~70年代のイギリスのシンガーソングライターからの影響を公言していますね。フォークミュージックとの出会いについて教えてください。 リアナ:フォークミュージックに興味を持ったのはその少し後のことで、高校を卒業して大学に入学する前くらいのときに、当時の彼氏がよく聴いていて紹介してくれたんだよね。そこからアーティストたちの交流や当時のこと、フォークミュージックのリバイバルに繋がった政治的な状況についてインターネットで掘り下げて、その全てに夢中になったんだ。 ─ヴァシュティ・バニヤンの音楽の魅力はどこですか? リアナ:とても優しくて、聴くのが辛くなっちゃうくらいなところ(笑)。考えうる限り最も静かな音楽だと思う。あとは彼女の曲のストーリーが大好き。もう誰もそんなことをしてない時代に、彼女は馬車でロードトリップに出たんだよね。そのロマンティシズムというか、非現実的なところが好き。数年前に彼女の書いた本が出て、その旅のことなんかが詳しく書かれている。彼女の曲は優しい視点を自然に向けていて、どこかもう戻ってこない時代の名残も感じる。彼女の曲の多くではイギリスの農村の生活とか、産業革命以前のライフスタイルに近いようなことが歌われてるんだよね。そういう暮らしに憧れがあるんだと思う。実際に暮らすとなったら、間違いなく暮らしにくいんだろうけどね。 ─そこからさらに、いわゆるブリティッシュ・フォークを掘り下げていったわけですか? リアナ:ええ、ブリジット・セント・ジョンとか……。彼女を含め、ずっと後になって再評価されたアーティストたちが大勢いた。フェアポート・コンヴェンションはジャズの技術やコードとフォークスタイルを融合していた。ペンタングルも……バート・ヤンシュのギター・プレイの影響はとても大きかった。他にもアメリカ人だけど、(自分の中で)このジャンルに当てはまる人が何人かいる。例えばリンダ・パーハクスとかコニー・コンヴァースとかね。 ─ここまで話してきたような音楽と初めて出会った日のこと、初めて自分のための音楽だと思えた日のことは覚えていますか? リアナ:具体的な日のことは覚えてないけど、それがベベウ・ジルベルトの『Tanto Tempo』だったことは覚えてる。エレクトロニック風の90年代ラウンジ・ボサといった一枚で、CDをいつもかけて何度も何度も聴いてた。リズムと曲そのもの、あとは彼女の歌に感動したんだよね。ボサノヴァを聴いたのはその時が初めてだった。フォークミュージックだったら、ニック・ドレイクの「River Man」だったと思う。 ─ニック・ドレイクを初めて聴いた時、どこに感動しましたか? リアナ:掴みどころがなくて、謎めいたところ。「Pink Moon」とか、自然のことを歌っているのか、世界の終わりのことを歌っているのかわからない。そんなところが好きだった。まるで予言みたいで、めちゃくちゃ奔放なの。 ─ブリティッシュ・フォークとボサノヴァは当然、異なる地域や歴史のバックグラウンドをもつ音楽です。あなたはこの2ジャンルの音楽的に共通する部分、異なる部分をどのように認識し、自分の曲のなかで、どのように溶け込ませようとしているのでしょう? リアナ:いい質問。第一の共通点は、どちらも楽曲に重点が置かれているところ。曲は特定のシンガーから切り離されて存在し、さまざまな人にカバーされるべく書かれている。そうやって曲は情報を伝達する。あと、ボサノヴァもフォークも、ギター1本で演奏されることが多いのも一緒ね。そのことから生まれるある種のシンプルさがある。 ただし、ボサノヴァはコード的にはかなり複雑。それでもたった一人、部屋で演奏することができるというのがボサノヴァのクールな点。それに対して、フォークは感性の部分でよりDIY的で、何人かの人たちが集まってどこでも演奏できるというか。じゃあ果たしてボサノヴァは、よりDIY的なサンバを「高級化」した音楽の形なのか、と議論になるところだよね。ボサノヴァはアメリカのラウンジ歌手のスタイルに受け入れられやすいよう、アメリカのジャズのフレーバーが色濃い。それで「ボサノヴァ=エレベーター・ミュージック」みたいに語られてしまいがちなのがとても残念。うん、違いはそこかな。 ─話は変わりますが、今日のシンガーソングライターでシンパシーを覚える人は? リアナ:ラナ・デル・レイが大好き。彼女の他には……いっぱいいすぎて……ワイズ・ブラッド! あとは、フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドからもたくさん影響を受けた。 ─Spotifyにあるあなたのプレイリストを見ると、日本のアーティストの名前も見られます。青葉市子は国内でも有名ですが、佐伯好子(70年代に活躍したシンガーソングライター)を知っている若い日本人はそこまで多くないですし、800 cherries(渋谷系の宅録ポップ・ユニット)も日本ではほとんど知られていません。どのようにして日本のアーティストを知ったのでしょうか? リアナ:世界中のいろんな音楽と繋がれるのは、やっぱりソーシャルメディアのおかげだね。たとえば800 cherriesは、TikTokかSpotifyのDiscover Weeklyから発見したんだと思う。ソーシャルメディアについては文句もあるけど、こういう発見には本当に役立つ。青葉市子は私のお気に入りの一人だよ! ─日本の音楽にどんな魅力を感じますか? リアナ:コード進行の冒険心や複雑さ、特に曲作りの洗練された面に魅力を感じる。少し前は渋谷系にハマっていた。その魅力をなんとか「キュート」以外の言葉で表現したいんだけど……なんていうか甘くて、優しくて、気持ちを高めてくれるような……単にキュートなのではなく、冒険的なところがある。特に渋谷系はボサノヴァの影響も感じるしね。 ─あなたのSpotifyアカウント画像は『どうぶつの森』の「とたけけ」ですが、ゲームやアニメで好きなものがあれば教えてください。 リアナ:うーん、私の趣味はかなりベーシックだと思うからちょっと言いにくいんだけど、ゲームだと『どうぶつの森』が大好き。昨日は映画『パーフェクトブルー』を見た。『カウボーイビバップ』はサウンドトラックも素晴らしいから好き。『エヴァンゲリオン』も大好きだけど、もっと他の作品にも触れたいと思ってるよ。