<軽減税率>事業者コストが中小企業に過大な負担?
年末の総選挙で消費税の軽減税率を公約にしていた自公連立政権が勝利したこともあり、にわかに盛り上がってきたものとして消費税の軽減税率についての議論があります。 【図表】消費増税の低所得者対策 「軽減税率」って何? もちろん、消費税の問題点として挙げられる逆進性を緩和するためという大義名分には一理あるのですが、実際にはそれほど効果的ではなく、低所得者層に対する配慮をするのなら「還付制度」の方が制度として簡単で透明性が高い。さらに、軽減税率の対象となる品目の選定が難しい事や、事業者や行政機関が追加で負担することになる徴税コストが過大になるという、さまざまな問題が指摘されています。
中小企業が税金を払うための手間が増える
さて、中小企業支援に携わる者の視点からは、軽減税率の最大の問題点は事業者負担コストの過大さであると考えられます。 「商品毎に税率が異なる?これの税率は何パーセントなの?」「テイクアウトとイートインで税率が異なる?」「取引先にインボイスの作成を求められたけど、どうやって作るの?」「いざ税の申告となったのだけど、すごく難しくなったよ…」こういった声が聞こえてくるのが想定されます。 これらの声はいずれも、税金を支払うために手間がとても増えるという事を表しているかのように考えられます。難しい事を考えなくとも、このような問題が現場で沢山出てきそうな気はします。
コストを価格に転嫁するのは難しい
さて、消費税が5%から8%に税率が上がった際、国が「消費税価格転嫁対策事業」なる事業を行っていたのをご存知でしょうか? 消費税の価格転嫁が適切にできない場合、事業者の得るべき適正な利潤が得られなくなり、最悪、倒産といった問題を引き起こしてしまうので、国が責任をもって消費税の価格転嫁対策を手助けしましょうという施策です。 そして、この施策を行うために多額の予算が使われました。具体的には、平成25年度の補正予算で「消費税転嫁円滑化等支援情報システム開発事業:5億円」「消費税転嫁状況監視・検査体制強化等事業:20億円」「消費税転嫁対策窓口相談等事業(取引先いじめ防止対策事業):29.6億円」といった予算を計上して事業を行っていたのです。 このことは裏返すと、そこまでの支援をしないと、みんなが知っている消費税増税に伴う、消費税の価格転嫁でさえ難しかったという事です。 では、事業者の事務コスト増加はどうでしょうか? 消費税増税という問題のようにみんなの関心を集めているでしょうか? そんな事は決してないですよね。そして、みんなが特に関心を持たない事業者の事務コスト増を価格に転嫁させるためには、一体どれだけの苦労が必要となるでしょうか? 言い換えると、あなたが消費者の立場に立ったときに「あれ? 食品は軽減税率で税率が5%に下がっているハズなのに、このお店はあまり安くなってないよね?」と言わないでいられるでしょうか? もちろん、店主に聞けば「軽減税率の実現のために、手間とお金がかかっちゃって……だから事務負担が増えた分のコストは価格に転嫁したんですよ」という説明があるでしょうが、それで納得いくでしょうか? 個人的には困難だと考えます。 そして、価格転嫁が困難なものであれば、啓発のためにはより多くの事業を行う必要があるでしょう。その結果、税を軽減するという施策を実現するために国が非常に大きな経済的資源を使うといった事象が発生しそうです。