J2新本拠地が「一番の理想」 日本代表OBも絶賛した利点とは?…海外と異なる構造問題も【インタビュー】
長崎に今季新たなスタジアムが開業、太田氏が日本サッカー界への影響を紐解く
V・ファーレン長崎の新たなホーム「ピーススタジアム」を中心とする複合施設「長崎スタジアムシティ」が開業した。最新設備を施した新たな聖地の誕生で、Jリーグのスタジアムも新たなフェーズへ向かっている。FC町田ゼルビアでクラブアンバサダーを務める元日本代表DF太田宏介氏も絶賛しており、今後の日本サッカー界へ与える影響力について言及した。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也) 【動画】「もはやプレミアリーグ」 ピッチと最短5m…長崎の新スタジアム「ピース・スタジアム」 ◇ ◇ ◇ 長崎スタジアムシティには、アリーナ・ホテル・商業施設・オフィスなどの施設が揃う。長崎のスポンサーであるジャパネットグループが主導し、事業費約1000億円をかけた新たなプロジェクトだった。10月6日のピーススタジアムこけら落としでは、約2万人収容のスタジアムに早速1万9011人が駆け付けている。 町田でクラブアンバサダーを務める太田氏は「日本国内国外問わず、あのようにクラブが所有するスタジアムっていうのは1番の理想ですね」と長崎の新スタジアムについて語る。「ジャパネットグループが主導する複合施設を作れたというのが大きいです。日本のスタジアムは基本、行政の持ち物ですから」と、長崎スタジアムシティの最たる特徴を挙げた。 その利点として「サッカーだけではなく、格好の観光スポットにもなりますよね。そこに多くの雇用が生まれて、これから長崎に住みたいっていう人も増えるでしょうし……。地方にこういった施設ができるのは素晴らしいことだと思います」と話し、街を活性化する意味でも重要な一手であると感じている。
選手時代に海外クラブでのプレー経験もある太田氏は「海外では結構、商業施設、ホテルなどが一緒になっているスタジアムはあります。駅直結のものも多いですね。この前まで田中碧選手がいたデュッセルドルフもそうでした」と、かつて元日本代表MF田中碧(リーズ・ユナイテッド)や原口元気(浦和レッズ)、宇佐美貴史(ガンバ大阪)など日本人も在籍したドイツ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフの本拠地「メルクール・シュピール=アレーナ」を一例に挙げた。 「日本企業がすごく多い街なんですよね。駅からすぐつながっていてホテルもある。観客の立場からすると本当に行きやすいスタジアムです。また選手のフィジカルコンタクトの音が聞こえるような、そんな臨場感があります」 また、香川真司(セレッソ大阪)がかつて活躍したドイツ1部ドルトムントの本拠地ジグナル・イドゥナ・パルクを例に「ゴール裏だけで3万人近く入ります。日本とは違って地震があまり起きないので、スタンドの縦の傾斜が急なんです。だから構造自体が日本と全く異なっています」と、国が持つ特色によってスタジアムも形状に変化が表れている点も教えてくれた。 「日本は災害があった時のために、免震構造を備えた造りになっています。浦和レッズの埼玉スタジアムみたいに、なだらかに上にスーッと上がっていくような感じですね。ヨーロッパは割とピッチを上から見下ろすような感覚です」 今年開業した長崎のピーススタジアムは、都市部の長崎駅からと徒歩10分とアクセスもいい。J1昇格を目指して戦うチームの力になると共に「もしかしたら、日本代表戦をやったり、ACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)を開催したり、と今後広がっていくと思います。ただ、もう少し長い目で見ないといけないですけどね」と期待を寄せる。 もちろん自身が携わる東京・町田にも「やっぱりサッカー専用スタジアムは欲しいですよね。今後マストの議題です」と太田氏は思いを口にする。「選手のモチベーションにもつながりますし、見に来たサポーターにとっても陸上トラックがあるかないかで雰囲気が全然違います。長崎みたいに大きな母体の親会社が投資してくれるのは日本のサッカー界にとってもいいことだと思います。町田も(株式会社)サイバーエージェントさんですから、将来的に期待しちゃいますよね!」と、クラブのさらなる発展も含め、さらなる日本サッカー界の進化を夢見ていた。 [プロフィール] 太田宏介(おおた・こうすけ)/1987年7月23日生まれ。東京都出身。FC町田―麻布大学附属渕野辺高―横浜FC―清水エスパルス―FC東京―フィテッセ(オランダ)―FC東京―名古屋―パース・グローリー(オーストラリア)―町田。Jリーグ通算348試合11得点、日本代表通算7試合0得点。左足から繰り出す高精度のキックで、攻撃的サイドバックとして活躍した。明るいキャラクターと豊富な経験を生かし、引退後は出身地のJクラブ町田のアンバサダーに就任。全国各地で無償のサッカー教室を開校するなど、現在は事業を通しサッカー界への“恩返し”を行っている。
FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko